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【シリーズ・海外の司法参加】第3部:ドイツ編(中)―参審制度の運用状況
2010年8月31日

裁判員ネットでは、諸外国の市民の司法参加について調査する活動を行っています。日本の裁判員制度と世界の国々の裁判制度を比較・検討しながら、 市民の司法参加について海外にも視野を広げることで、日本の裁判員制度についての議論をより深めることができるのではないでしょうか。
この連載では、韓国、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどを取り上げ、それぞれの国につき3回程度に分けて定期的に連載をしております。各国の事情を知ることで日本の裁判員制度を考えるうえで参考になることが数多くあると思います。どうぞ最後までご覧いただければ幸いです。
ドイツ編(中)―参審制度の運用状況
シリーズ・海外の司法参加の第3部、ドイツ編の第2回はドイツの参審制度の運用状況についてのご報告です。
前回はドイツの導入の背景や、概観を報告いたしました。そこで今回は、実際に参審裁判が行われた件数や、参審員へアンケート内容などについて見ていきましょう。
1.市民の選任
参審員はドイツ全体の男女比、年齢比や職業構成比などあらゆる階層から選任されるよう配慮されています。つまり出来るだけ「ドイツ国民の縮図」を再現しようとしているわけです。少し古いデータですが、参審員の職業は、1993年には自営業者17%、被雇用者60%、主婦18%、年金生活者3%、その他2%となっています。(※1)
2.参審員の数
参審員として、各裁判所の参審員名簿に記載されている参審員の数は、正参審員・予備参審員合わせて33,522人に上ります(1993年)。
3.参審裁判の件数
1993年のデータによると、ドイツ国内の裁判総数668,858件中、参審員裁判の件数は82,341件と全体の約13%です。これは同じく司法における「市民参加」を採用している日本と比べると、その違いは歴然としています。最高裁判所によると、日本の裁判員裁判は刑事通常事件(第一審)全体(97,826件)の2.7%、裁判件数は2643件です(2007年のデータに基づく試算)。前回も言いましたが、ドイツでは行政や労働に財政、少年事件などに関する裁判にも市民が参加します。ですから、ドイツではいかに幅広く市民が裁判に参加しているか、ということがデータからもわかると思います。
4.参審員の権限
参審員は裁判官と共に有罪・無罪を判定し、軽量まで決めるほぼ同等の権利を持っています。しかし、以下の点については参審員には認められておらず、裁判官のみに与えられた権限です。
①裁判の前に捜査機関が作成した調査資料を読むこと
②判決理由を書く作業
ただ、上記の①が認められていない理由ですが、ドイツでは参審員は「法廷で提示された情報のみから判決を導くべき」でありという「口頭主義」が徹底されているという背景がある、ということも併せて指摘しておきます。
5.有罪率
1993年に終了した刑事裁判のうち、有罪となった割合は成人事件で84.2%、少年事件で63.7%でした。日本ほどではないものの、刑事裁判における被告人の有罪率は高いようです。
6.参審員の発言機会
さてドイツの参審員は十分に質問の機会を利用できているのでしょうか。この点について1993年、参審制の現状を調べる目的で、ドイツのマールブルグ大学が調査を行いました。この調査は参審員、裁判官、検察官に対して行われた調査ですが、その結果次のようなデータが出てきました。
表1のように、質問頻度について、裁判官・検察官(法律家・プロ)と参審員(市民・素人)の双方とも「少ない、まれ」「ほとんどない」「ない」と回答する割合が半数以上かそれに近い数値を示しており、法律家側も市民側も半数は参審員の尋問が「少ない」と実感しているということになります。
表1 参審員の質問頻度について(1993年マールブルグ調査・『陪審・参審制 ドイツ編』司法協会[1999]より作成)
| 参審員の尋問頻度 | 裁判官・検察官の認識(118人中) | 参審員の認識(123人中) |
|---|---|---|
| ほとんどいつも | 1人(0.8%) | 7人(5.7%) |
| しばしば | 8人(6.8%) | 10人(8.1%) |
| 時々 | 38人(32.2%) | 45人(36.6%) |
| 少ない、まれ | 49人(41.5%) | 25人(20.3%) |
| ほとんどない | 20人(16.9%) | 24人(19.5%) |
| ない | 2人(1.7%) | 12人(9.8%) |
7.参審制に対する評価
また、このマールブルグ大学調査によると「参審制に賛成か?」という問いに対し、参審員の98%、裁判官の76%、検察官の74%が「賛成」と回答しました。以下は参審制に対して「賛成」であることの根拠を示したアンケート結果です。この中で注目すべきは「より納得のいく裁判」が賛成の根拠としてあまり挙げられていないところにあります。その理由としては、法曹や司法への高い信頼があるからと考えられ、「司法運用状況の可視性」もあまり重視されていないことからも、そのことがうかがえると言えるでしょう。
表2 参審員制賛成の根拠(複数回答可)(1993年マールブルグ調査・『陪審・参審制度 ドイツ編』司法協会[1999]より作成)
| 参審制に賛成する論拠 | 参審員 (1095人) | 裁判官 (133人) | 検察官 (205人) |
|---|---|---|---|
| 民主主義の原則 | 49% | 58% | 47% |
| 公判審理がより分かりやすくなる | 23% | 19% | 23% |
| より納得のいく裁判 | 9% | 6% | 4% |
| 参審員の人生経験を活かせる | 67% | 45% | 42% |
| 教育効果 | 21% | 28% | 6% |
| 参審員による裁判官の制御 | 33% | 34% | 35% |
| 裁判官のマンネリ化の防止 | 56% | 29% | 42% |
| 司法運用状況の可視性 | 14% | 21% | 9% |
| 市民の法感情の影響 | 58% | 18% | 33% |
| 司法に対する一般的な信頼の増加 | 23% | 51% | 51% |
8.参審員と裁判官との意見の相違について
さらに、法廷での裁判官と参審員の意見の相違が判決に与える影響を明らかにしようとした「キャスパー・ツァイズェル調査」 によりますと、「有罪か無罪」をめぐって参審員と裁判官の意見のくい違いが発生した割合は、被告人が事実関係を否認している事件全体の約10%で起こっているそうです。また「量刑」に関する意見の相違は有罪事件全体の21%で起きています。
<注>
(※1)『陪審・参審制度ドイツ編』司法協会(1999)より。なお、以降の具体的データはこちらの資料を参照。
以上のように、今回はドイツの参審制度の運用状況についてご報告させていただきました。ドイツ編最終回となる次回では、改めてドイツの参審制度と日本の裁判員制度の特徴を比較して、そこから見える問題点を明示して、検討したい参りたいと思っております。それでは、次回をご期待くださいませ。
(裁判員ネット:田中浩太・服巻美香)
…………………………………………………………………………………………
【参考文献】
・『陪審・参審制度 ドイツ編』司法協会(1999)
・丸田隆『陪審員制度』平凡社(2004)
・紙谷説子・澤康臣『世界の裁判員~14カ国イラスト法廷ガイド~』日本評論社(2009)
【参考URL】
・各国の陪審・参審制度の比較(閲覧日2010年3月12日)
http://www.iiajapan.com/system/forum/28_sanko2.pdf
・独立行政法人労働政策研修・研究機構ホームページ(閲覧日2010年3月12日)
http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2006_1/german_01.htm
・日本弁護士連合会「裁判員裁判HP―世界各国の市民参加制度」(閲覧日2010年3月15日)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/citizen_judge/about/column1_ge.html
・最高裁判所ホームページ「司法スケッチ~歴史ある参審制~ドイツ」(閲覧日2010年3月15日)
http://www.courts.go.jp/about/sihonomado/pdf/68_sihouSketch.pdf
・首相官邸ホームページ「司法制度改革審議会 海外実状調査」(閲覧日2010年3月15日)
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/991118gijiroku5.html
・裁判員ネットホームページ「教えて裁判員制度!」(閲覧日2010年8月15日)
http://www.saibanin.net/lecture/outline.html
【シリーズ・海外の司法参加】第3部:ドイツ編(上)―参審制度の導入の背景と概要
2010年8月25日

裁判員ネットでは、諸外国の市民の司法参加について調査する活動を行っています。日本の裁判員制度と世界の国々の裁判制度を比較・検討しながら、 市民の司法参加について海外にも視野を広げることで、日本の裁判員制度についての議論をより深めることができるのではないでしょうか。
この連載では、韓国、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどを取り上げ、それぞれの国につき3回程度に分けて定期的に連載をしております。各国の事情を知ることで日本の裁判員制度を考えるうえで参考になることが数多くあると思います。どうぞ最後までご覧いただければ幸いです。
ドイツ編(上)~参審制度の導入の背景と制度の概観
ドイツでの市民の司法参加には200年もの歴史があります。現在、ドイツでは刑事事件だけではなくその他多くの裁判において市民が参加する仕組みがあります。日本での市民の司法参加は「裁判員制度」という形で実現したのに対して、ドイツの場合は「陪審制度」を経て、現在は裁判官と市民から選ばれた参審員と呼ばれる人々で事件の判決を下す「参審制度」が採られています。
1.導入の背景
ドイツの参審制の導入の背景は、フランスの影響があります。1789年にフランス革命が起こりますが、この過程で司法制度への改革も進行します。この頃、フランスでは市民の中から選ばれた者が裁判を行うべきだという声が強まり、その結果革命後のフランス憲法に取り入れられ、フランスでは陪審制が導入されました。この一連の動きは、隣国ドイツに大きな影響を与え、ドイツにも陪審制の導入についての議論がなされ始めました。
ドイツにおける裁判への市民の参加が本格的に始まったのは、1848年にヨーロッパ各地で起こった革命以降です。この時導入された陪審制はフランスの要素を多く取り入れたものでしたが、陪審員の権限も限定的であり、対象となる事件も比較的重い犯罪に関するものだけで、全体としては少ない割合でした。これに対し、市民が関与する機会を増やす策として、いくつかの州では職業裁判官と市民が共同して判決を行う「参審制度」が導入されました。この時の参審裁判は、懲役6か月以下の軽い刑が対象となりました。
1871年にドイツ帝国が成立した際、陪審裁判所を存続させるか、それとも陪審裁判所を廃止してすべての刑事事件に参審裁判所制度を導入するかの議論がなされました。その結果この妥協策として、刑事事件の構成として、(1)軽微な事件については参審裁判、(2)中程度の事件は職業裁判官のみの裁判、(3)重大な事件は陪審裁判で判決を下すという妥協策がとられました。これは、1879年からドイツ全国で実施され、それまで各州によって差があった司法制度が統一されることになったのです。
しかし、この3つの裁判制度を導入したものの、結果的に広範囲の裁判を裁判官だけで行い、市民の参加が排除されているとの問題が起こり、改正の要求がありました。こうした批判を受け、1924年エミンガー司法大臣による改革が行われ、陪審裁判所という名称は残ったものの実質的に、ドイツにおける陪審員制は廃止され、参審制に集約されました。しかし、ナチス政権により市民の司法参加は崩壊しますが、戦後参審制は復活し、1974年の刑事手続の改正により、ドイツの参審制度が完成しました。
近年では1993年の裁判所構成法の改正により、裁判官単独で審理及び、判決を担当する刑事単独裁判所の管轄が軽罪1年から2年に拡張されたことにより、参審裁判の対象事件が縮小されました。
このように、ドイツの市民の司法参加は長い歴史を持ち、幾度となく改正を加えながら現在の参審制度となりました。
2.ドイツの参審制の概観
では、ドイツと日本の刑事裁判の制度を比較する表をご覧下さい。(なお、ドイツは、連邦制国家であるため州ごとに異なる部分があります。ここでは、多くの州でとられているものをご紹介します)
| | ドイツ【参審制度】 | 日本【裁判員制度】 |
|---|---|---|
| 対象事件 | ・2年以上4年以下の刑が予想される事件 *その他に、労働、行政、財政、少年事件なども対象になっている。 | ・裁判員法2条に定めがある犯罪に係る事件 1.死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件 2.法律上合議体で取り扱わなければならない事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの |
| 構成 | ・裁判官3名(又は1名) ・参審員2名 (法定刑の軽重による) | ・裁判官3名(又は1名) ・裁判員6名(又は4名) |
| 任期 | ・5年間(月に1件程度) | ・事件ごと |
| 選任方法 | ・25歳以上 ・政党、団体等からの推薦 | ・20歳以上 ・選挙人名簿から無作為抽出 |
| 予備人員 | ・審理が長期化する場合数名 (裁判官の判断に委ねられる) | ・補充裁判員を数名設ける |
| 権限 | ・裁判官と同等 ・有罪・無罪の決定 ・量刑判断 | ・裁判官と同等 ・有罪・無罪の決定 ・量刑判断 |
| 選任前の対応 | ・1時間程度の講義 ・刑務所見学 | ・質問票記入後、裁判長等と面談 |
| 評決方法 | ・有罪には3分の2の多数が必要 | ・多数決(ただし、裁判官・裁判員各1名以上の賛成必要) |
| 日当 | ・職務によって生じた損失分 | ・裁判員、補充裁判員:1万円以内 ・裁判員候補者:8000円以内 |
| 審理日数 | ・原則1日か2日 | ・平均3日(全体の7割程度) (ただし、事件の内容によって延長される) |
| 公判前整理手続 | ・非公開 | ・非公開 |
| 被告人の選択 | ・不可 | ・不可 |
| 上訴審の市民参加 | ・あり | ・なし |
表からわかるように、ドイツの参審制度と日本の裁判員制度では評決方法が多数決である点と、被告人が「市民参加の裁判」か「職業裁判官だけの裁判」かを選択できない、という2つの点で共通していますが、その一方でドイツの参審制と異なっている点も数多くあり、その部分から日本の裁判員制度を考える上で参考になることがあると思います。ではこれから、特徴的な項目について簡単に説明したいと思います。
(1)対象事件
ドイツの刑事事件における参審裁判の対象事件は、2年を下回る軽罪と国家安全に関わる罪以外で、日本に比べて広範囲にわたり市民参加の機会が与えられています。ドイツの裁判では、職業裁判官以外の者が裁判に参加する機会は多くあり、日本の市民参加は一部の刑事裁判に限られているのと比べるとかなり異なっていると言えます。またドイツの場合、労働、行政、財政、少年事件などの裁判にも市民から選ばれた者が参加しています。
(2)参審員の任期
日本の裁判員は、1件の事件裁判を担当し、その事件の判決を下すまでが任期となっています。しかし、ドイツでは参審員として5年間という任期があり、その期間を通して任務を行います。毎年度の初めにくじ引きを行い、年間10~12期日を目安に、どの参審員がどの開廷日に出廷するかが決められます。参審員となっても、市民としての本職があるので担当する裁判があるときは、仕事を休んで裁判所に通うことになります。5年という任期は2009年からで、それ以前の任期は4年間でした。この改正は参審員の選任の経費を削減するためのものでした。
(3)市民の選び方
ドイツでは選出方法も州ごとに異なりますが、ここでは多くの州で採用されている選出方法について触れます。参審員の選任は、まず地方自治体(市町村レベル)が候補者名簿を作成するところから始まります。ドイツの場合、候補者は25歳以上です。候補者名簿の作成方法は、各自治体に任されていますが、あらゆる階層から参審員が選任されるよう配慮して、選任予定の参審員の定員よりも多い数の候補者名簿を作成することや、地域の団体や政党から推薦された人を掲載する方式などが採られています。
次に、この自治体が作成した候補名簿に基づいて、区裁判所内に設置された「選任委員会」の委員による投票によって参審員は選ばれます。この「選任委員会」とは裁判官と自治体の行政官、そして一般市民の代表者(自治体において選任されますが、特別な資格等は必要ありません)から構成されています。この「選任委員会」の3分の2以上の賛成によって参審員は選出されるのです。
(4)日当
ドイツでは、参審員に選ばれることを名誉職としてみなされているため俸給は支払われません。しかし、参審員を担当したことによって生じた損失分は法律によって補償されています。補償内容は、①時間的拘束に対する補償、②旅費、③経費です。①の時間的拘束に対する補償は、参審員として裁判所に出頭した人全員に支払われるもので、1時間日本円で約580円。それに加えて、裁判所に参審員として留まっていた時間に得られたであろう所得に対して最高額で1時間日本円で約2000円まで補償されます。時間的拘束に対する補償は、1日10時間が限度とされています。②の旅費に関しては、もっとも安い交通費の実費として1kmあたり日本円で約350円を200㎞まで、さらに自動車による交通費として駐車料金が支給されます。③の経費は、裁判所に出頭する場合、自宅や職場にいるよりも食事等に費用がかかる点から補填する目的で、1日あたり日本円で約400円支給されます (*1)。
(5)審理日程
ドイツの刑事裁判は、多くの場合は1日か2日の期日で審理を終えます。ですから証拠調べ、論告、弁論、被告人の最終陳述、評議、判決宣告が即日中に行われることがあります。ただし、審理に時間がかかると予想される複雑な重大事件や財政経済事件の場合、論告、弁論のための期日を設けることが出来ます。この場合、裁判長の判断により補充参審員を招集します。
(6)上訴審の市民参加
ドイツでは、区裁判所に限り参審裁判の判決に対して控訴を認められています。この際、第1審と同じ裁判官2名と参審員2名で審理される場合もあります。ドイツでは、控訴審に関する議論が繰り返してきましたが、民主主義の理念から参審員の参加している以上、控訴審でも同様に参審裁判を行うことは、当然のことと捉えられています。
(7)裁判官の「職権主義」
ドイツの刑事裁判は「職権主義」つまり、裁判官が審理の主役となり真実発見のためにあれこれ調べ、場を仕切るスタイルをとっています。裁判官は、例えば証人喚問のときなど、質問は裁判官が大部分を行い、検察官や弁護人は裁判官の質問が終わった後に補足的な質問をする形がとられています。
(8)参審員の質問権
裁判官同様、参審員にも証人尋問の際に、証人に対して質問する権利があります。しかし、質問は裁判官の許可を得なければ行えず、しかもその質問が不適切であると裁判官に判断された場合、裁判官によってその質問自体が取り消されてしまうこともあります。
(9)参審員に任命された場合の義務
ドイツでは参審員の場合、それに選ばれたからといって、特別な義務があるわけではありません。検察官、裁判長による1時間程度の講義やフランスの参審員制でも採用されている刑務所見学も行われますが、参加はあくまで任意。また、「参審員のための手引き」なる冊子が配布されるのですが、読むかどうかは参審員次第となっています。これは、「参審員は一般市民の健全な常識によって判断すべきだ」という考えに立脚した配慮です。
(10)法廷の配置
ドイツでは1960年代後半に「法廷が権威的すぎる」という批判が起こったため(68年運動)、裁判官の座る位置を低くし、法廷に大きな窓を設けるなど工夫が施されています。また、法廷の雰囲気も日本のそれより温みを持たせて、権威的にならないような配慮がされています。
<注>
(*1) 例)裁判所から近郊の地域から、出頭した参審員が所得換算で1時間2000円の人の場合、7時間裁判のために拘束されたケースでは約2万3000円程度の日当を受け取ることができます。
今回はドイツ・参審員制度の導入の背景と概観を報告いたしました。次回の連載では、近年の参審員裁判の実施件数などの運用状況についてご報告させていただく予定です。どうぞご期待くださいませ!
(裁判員ネット:田中浩太、服巻美香)
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【参考文献】
・丸田隆(2004)「裁判員制度」平凡社
・東京三弁護士会陪審制委員会(1996)『フランスの陪審制とドイツの参審制―市民が参加する刑事裁判』
・最高裁判所事務総局刑事局監修(1999)『陪審・参審制度(ドイツ)』司法協会
【参考URL】
・「司法スケッチ~歴史ある参審制~ドイツ」(閲覧日:2010年3月28日)
http://www.courts.go.jp/about/sihonomado/pdf/68_sihouSketch.pdf
・「司法制度改革審議会 海外実状調査結果(平成12年4月~5月)ドイツ」(閲覧日:2010年3月28日)
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/sonota/kaigai/pdfs/doitu.pdf
・各国の陪審・参審制度の比較(閲覧日:2010年3月28日)
http://www.iiajapan.com/system/forum/28_sanko2.pdf
・ドイツ(州レベル)における裁判官の人事制度(閲覧日:2010年3月28日)
http://www.courts.go.jp/saikosai/about/iinkai/saiban_kenkyu/jinzai_siryo3/pdf/siryo6.pdf
【シリーズ・海外の司法参加】第2部:フランス編(下)-運用状況と考察-
2010年8月8日
裁判員ネットでは、諸外国の市民の司法参加について調査する活動を行っています。日本の裁判員制度と、世界の国々の裁判制度を比較・検討しながら、 市民の司法参加について海外にも視野を広げることで、日本の裁判員制度についての議論をより深めることができるのではないでしょうか。この連載では、韓国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリアの7カ国を取り上げ、それぞれの国につき3回程度に分けて定期的に連載をしていく予定です。各国の事情を知ることで日本の裁判員制度を考えるうえで参考になることが数多くあると思います。どうぞ最後までご覧いただければ幸いです。
フランス編(下) 運用状況と考察
「シリーズ・海外の司法参加」。第2部ではフランスを取り上げています。前2回において参審制度が導入された背景から現在の制度の概要までを見てきました。日本とは異なる特徴を持った制度であることがご確認いただけたのではないでしょうか。フランス編の最終回である今回は、制度の運用状況をざっと眺めたうえで、これまで見てきたことを総括する考察を行いたいと思います。
1.運用状況
以下において日仏の制度の運用状況の比較を行っていますが、フランスのデータは、最新のものが入手できず、かなり古いデータ(2002年)を用いています。また、日本のデータは、調査時点において裁判員制度施行後の通年データが収集できなかったため、2008年のデータを用いています。ご了承いただければ幸いです。
(1)件数、内容
フランスでは2002年に2825件の判決が重罪院で言い渡され(*1)、そのうち17%は故殺(故意に他人を殺害する行為)、13%は凶器所持強盗、52%が強姦事件でした(図1参照)。
一方、日本では2008年において2208件の事件が裁判員制度の対象となるものでした(*2)。そのうち25%が殺人、31%が強盗致死、致傷、10%が現住物等放火の事件でした(図2参照)。
フランスにおいて強姦の比率が一際高いのが目を引きます。日本においても強姦致死、致傷事件は裁判員裁判の対象事件となるはずですが、大きな割合を占めていないのは国民性の違いによるものなのでしょうか。
年間利用件数 日本:2208件(平成20年裁判員制度対象件数)
フランス:2825件(全国・2002年)
(図1)

(図2)

(2)無罪・控訴等
フランスでは重罪院に提訴された事件のうち約7%が無罪になります(*3)。日本の刑事裁判の有罪率は99%以上と言われており、裁判員制度の導入によりこの数字がどのように変化するのか注目されています。
また、フランス重罪院では、2002年に裁判された事件の24%が控訴されています。一方、日本の2009年5月~11月の控訴率は16.9%にとどまっています(*4)。
(3)忌避制度
忌避制度については、理由なき忌避が大きな問題となっています。フランスでは日本以上に移民が多く、そのなかである特定の人種に対して忌避し続けることなどもあるそうです。また、高齢者や性犯罪における女性に対する忌避なども多発し問題となっています。
心理学者のディディエール・ヴェールらが参審員経験者を対象に行ったアンケート調査(2回行われており、1回目が1981年~1985年で150人に、2回目が1989年~1993年で236人の参審員経験者に行った)によると、1回目も2回目もともに忌避制度について不満を持った人が多数出てきたそうです。たしかに、自分には判断を下すことができないと思っている人や忌避制度についてよく理解している人には比較的受け入れられやすい傾向が見られたそうですが、忌避されるとは思っていなかった人や忌避制度をあまり理解していなかった人にとってはあまりよく思われなかったようです。
<注>
(*1) カティー・ボヴァレ、オリヴィエ・シロンディニ、大村浩子・大村敦志(翻訳) (2005)「ある日、あなたが陪審員になったら…-フランス重罪院のしくみ」信山社 90頁
(*2) 法務省編(2009)「平成21年度版 犯罪白書」
(*3) カティー・ボヴァレ、オリヴィエ・シロンディニ、大村浩子・大村敦志(翻訳) (2005) 90頁
(*4) 法務省編(2009)
2.考察
私たちがフランスの制度の中で特に気になったのは次の3点です。
(1)選任前のガイダンス
(2)明確な補償
(3)忌避制度
以下、順に考察を加えたいと思います。
(1)選任前のガイダンス
まず、日本との大きな違いであり、参考にすべき点としてはやはり選任前の参審員候補者に対するガイダンスが挙げられます。このガイダンスは、もともと1981年に司法大臣から重罪院の裁判官に対して発せられた通達(参審員候補者に対するガイダンスを充実し、参審員の質問にも十分な説明で対応すべきだという内容)に基づいて始められました。その通達では参審員候補者に対する拘置所・刑務所見学が有用であるとされていたことから、希望者に対して拘置所・刑務所見学を行うことが始まりました。この通達以前はそのようなものがなかったのが伺えますが、被告人を裁くにあたって、裁かれた後の成り行きをよく知らないで裁くより、実態をきちんと知って裁くほうがより真剣に考えられのではないでしょうか。フランスにおける拘置所・刑務所見学は、上記通達が発せられて以降それぞれの裁判所で独自に行なわれているのであり、特に法令化されているわけではありません。ということは、日本の裁判所においても今から裁判員候補者に対する充実したガイダンスを行うことができるはずではないでしょうか。市民と司法の歩み寄りをもっと進めていくには裁判所が行動で一役買うべきだと思います。
(2)明確な補償
企業に勤めている参審員候補者に対する明確な補償も日本にもない部分だと思います。たしかに歴史としてみれば司法の市民参加という点ではフランスのほうが桁違いに長いわけですが、上記のガイダンスや補償などは最近になって行われたものであり、決して日本の制度にも応用できないものではないと思います。
(3)忌避制度
フランスの制度の大きな問題点としてはやはり忌避制度が一番手に挙げられるのではないでしょうか。上記の運用状況(3)でみてきたとおり、理由なき忌避は市民の間に大きな不満の種を撒いています。まずは忌避制度に対する理解を市民の間に広げていくことが喫緊の課題でしょう。さらには、現状に対する市民の不満と忌避制度の有用性とを比較衡量しつつ、今後に向けて改善点を検討していくことも重要だと考えます。
3.あとがき
私たちは、フランスの参審制度を詳しく調べたことにより、日本の裁判員制度の長所・短所、フランスの参審制度の長所・短所を明確に知ることができました。それにより、日本の裁判員制度で挙げられている問題点を、諸国に導入されている制度を日本にも取り入れることにより、問題を解決できるのではないのかと感じました。特に私たちが導入したほうがいいと感じたのは、公判前に行われている刑務所見学です。刑務所を見学することにより、これから行われる裁判によって1人の人間がどのような未来を歩むのかを考えるきっかけになります。それにより、公平な裁判をしなければならないという使命感がつき、裁判も誤審の可能性が少なくなると思いました。他国の制度を知って得た知識を生かし、活動に役立てていきたいと思います。
また、日本の制度と比較しつつフランスの参審員制度を調べていきましたが、これはおもしろいと思ったものが多数あり、また反対に首を傾げるような制度もありました。日本にいながら他の国を調べるのは難しく、本格的にフランスを訪れ実際に見聞すればもっと核心に迫るものができたと思いますが、多数の図書、そして多数の仲間の助けもあり連載することができました。いずれはフランスに行って実際に裁判を傍聴し(その前にフランス語の勉強をする必要もありますが)、さらに自分たちの知識を深め、皆さんに提供していきたいと考えております。
(裁判員ネット:清水慶太、皆川友佳)
【参考文献】
・神谷説子・澤康臣(2009)「世界の裁判員-14ヶ国イラスト法廷ガイド」日本評論社
・カティー・ボヴァレ、オリヴィエ・シロンディニ、大村浩子・大村敦志(翻訳)(2005)「ある日、あなたが陪審員になったら…-フランス重罪院のしくみ」信山社
・法務省編(2009)「平成21年度版 犯罪白書」
・最高裁判所事務総局編(2000)「陪審・参審制度 フランス編」
【参考URL】
・「フランス司法権の特徴と重刑陪審裁判」中村義孝(閲覧日:2010年3月12日)
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/05-23/nakamura.pdf
・各国の陪審参審制度の比較(社団法人日本監査協会が実施)(閲覧日:2010年3月14日)
http://www.iiajapan.com/system/forum/28_sanko2.pdf
・海外実情調査報告(閲覧日:2010年3月14日)
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/sonota/kaigai/pdfs/huransu.pdf
・フランスにおける参審制度(閲覧日:2010年3月26日)
http://www.lalettremensuelle.fr/spip.php?article3158
フランス編(上)(中)はこちらから
裁判員経験者ネットワークが発足しました!
2010年8月4日
・全国の裁判員経験者の交流の場に
裁判員を経験された方の貴重な体験を社会で共有し、心理的な負担を和らげるために、裁判員や補充裁判員の経験者が交流できる場をつくることを目的とした、「裁判員経験者ネットワーク」を発足させました。
今日8月3日は、全国初の裁判員裁判が東京地裁で行われてから、ちょうど1年にあたります。その区切りのタイミングにあわせ、東京地裁の司法記者クラブにて「裁判員経験者ネットワーク」設立に関する記者会見を行いました。このネットワークには裁判員経験者の方々や他の市民グループの皆さん、元裁判官などの弁護士の皆さんも参加しており、私たち裁判員ネットもこのネットワークの一員として活動しております。今日の記者会見にも参加させていただきました。
この裁判員経験者ネットワークの設立の目的は、
1 裁判員の貴重な体験を市民全体で共有すること
2 裁判員経験者の交流の場の設定をして、心理的負担の軽減にも役立てること
この2つの目的から立ち上げることになりました。
・「閉じたまま」生活する裁判員経験者
これまで、裁判員経験者の皆さんのお話を聴いて痛感するのは、「誰にも何も話せず」不安や悩みを「ひとりで抱えてしまって」いるという現状です。これはもちろん裁判員を経験された方には「守秘義務」が課されることから「話してはいけない」だから「何も言わない(言えない)」という形になり、結果的に心理的負担となって、それをずっと抱え続けるわけです。
裁判員経験者の守秘義務は、実際の「評議」(判決を決めるための議論)の具体的な内容やプライバシーなど、裁判員を行う中で知り得た秘密に関して対象とされています。しかし、裁判の様子やそこで受けた感想などは自由に話しても良いことになっているのですが、この守秘義務のイメージがやや先行してしまい、結果的に「一切何も言わない」「口を閉ざさざるを得ない」となっているようです。
・「分断」され続ける裁判員経験者
これは単に個人が不安や悩みを「言わない(言えない)」という問題だけではありません。裁判員経験者は社会生活の中で、誰にも自分が「裁判員を経験した」ことさえも周りに「言えない」ことから、常に「孤独」な思いを余儀なくされている現状があります。
また同時に、裁判員経験者同士、裁判終了後自由に会ったり連絡し合ったりすることは全く問題ないのですが、「守秘義務」へのイメージがやや先行してしまい、「そういうことは一切してはいけない」「許されていない」と思ってしまっているケースもあるようです。
(場合によってはお互いの名前さえもわからないままの事例も報告されています)
その意味から、裁判員経験者は周囲からも裁判員同士からも分断されていると言えます。
実際に次のような例もありました。今回この裁判員経験者ネットワークにも参加されている方のお話ですが、この方は障がいをお持ちであることから、裁判員をやっている期間、他の裁判員のみなさんから色々と気遣いをしてもらったことが、とても嬉しかったとのことです。そんな想いから「とにかく一言お礼が言いたい」と思っておられるのですが、実は裁判員同士で連絡先を交換するなどしなかったことから、「お礼が言えない」ということにずっと心のわだかまりを感じ続けている、とのことです。この方の場合、後になって裁判員経験者同士が連絡しあったりすることが問題ないということを知ったそうです。
このような状況は、決して裁判員経験者にとっては良い状況とは言えません。また今後も毎年数千人以上が裁判員を新たに経験していくことを考慮すると、社会全体としてもプラスとは言えず、制度の運用面から言っても放置すべきではないでしょう。その観点から、このような交流の機会を作ることは重要なことではないでしょうか。
・経験の共有
また、これもこのネットワークに参加されている経験者の方のお話ですが、「裁判が終わったら、(裁判員としての立場から)お互いにすっと消えるべき・・・そんなふうに思っていた。でも、この経験を通して他人の人生の背景を深く考えるようになった。そういう自分の変化を含めて、体験そのものが共有できる場がある方が良いと思う」とおっしゃっていました。
私も含めてですが一般市民としてはこれから「裁判員になるかもしれない」わけですから、裁判員になるとどうなるのか、というのは当然のことながら関心があります。
もちろん、人それぞれケースが違うわけですから一概には言えない部分もありますが、少なくとも、裁判員を経験するとどうなるのかという自分なりのイメージをつかむ上では参考になると思いますし、事前の心構えをする上でも役立つのではないでしょうか。
・今後について
市民も裁判員として裁判に関わることになりました。制度としてはスタートから約1年しか経っておらず、まだまだこれから改善すべき点はたくさんあると思います。その時に「裁判員」としての経験された方の意見や想いは大変重要ではないでしょうか。特に守秘義務に関しては、正しい理解の必要性や、検討すべき課題、争点も多くあります。今後はそういった観点からも、活動を進めて行きたいと思っております。
もちろん「守秘義務」は裁判員の方々を守るために存在する側面もあります。またプライバシー等にも配慮が必要です。この点を考慮して、弁護士もこの活動に参加しています。後援弁護士として、元最高裁判所判事の濱田邦夫弁護士や日本弁護士連合会裁判員本部の牧野茂弁護士、その他にも、東京、名古屋、札幌、京都の弁護士が参加しています。
このネットワークは、東京、名古屋、大阪の市民団体が連携しながら展開していく予定です。裁判員ネットも他の市民団体と一緒にこのネットワーク作りに参画しております。
裁判員経験者のプライバシーに配慮して登録制となっております。
年会費は1,000円で、第1回の交流会を9月20日に東京都内で実施する予定です。
・お問い合わせは
お問い合わせは、裁判員ネット事務局又は裁判員経験者ネットワークのホームページからアクセスできます。どうぞお気軽にお問い合わせください。
⇒裁判員経験者ネットワーク・ホームページ
■参考情報
⇒守秘義務ついてはこちら
(裁判員ネット理事・坂上暢幸)
【シリーズ・海外の司法参加】第2部:フランス編(中)-フランス参審制度の概要
2010年7月14日
裁判員ネットでは、諸外国の市民の司法参加について調査する活動を行っています。日本の裁判員制度と、世界の国々の裁判制度を比較・検討しながら、 市民の司法参加について海外にも視野を広げることで、日本の裁判員制度についての議論をより深めることができるのではないでしょうか。この連載では、韓国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリアの7カ国を取り上げ、それぞれの国につき3回程度に分けて定期的に連載をしていく予定です。各国の事情を知ることで日本の裁判員制度を考えるうえで参考になることが数多くあると思います。どうぞ最後までご覧いただければ幸いです。
フランス編(中) フランス参審制度の概要
「シリーズ・海外の司法参加」。第2部ではフランスを取り上げています。前回はフランスにおいて参審制度が導入された背景を見てきました。フランスではフランス革命後に導入された陪審制度が根付かず、結局参審制度へと移行することになったのでした。今回はいよいよフランスの参審制度の中身を見ていきたいと思います。
1.フランス参審制度の概要~日本とフランスの違い
まずはフランスの参審制度と日本の裁判員制度の概要を比較した一覧表をご覧いただきたいと思います。
| | フランス【参審制度】 | 日本【裁判員制度】 |
|---|---|---|
| 対象事件 | ・重罪(無期刑、懲役・禁固10年以上の犯罪)に係る事件 *重罪には死刑は含まれない | ・裁判員法2条に定めがある犯罪に係る事件 ①死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件 ②法律上合議体で取り扱わなければならない事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの |
| 審理場所 | ・重罪院 | ・原則として地方裁判所 |
| 構成 | ・裁判官3名 ・参審員9名 | ・裁判官3名(又は1名) ・裁判員6名(又は4名) |
| 任期 | ・開廷期(2~3週間)任期制 | ・事件ごと(約3日間) |
| 選任方法 | ・23歳以上 ・選挙人名簿から無作為抽出 | ・20歳以上 ・選挙人名簿から無作為抽出 |
| 予備人員 | ・補欠2~3名 | ・補充裁判員を数名設ける |
| 権限 | ・裁判官と同等 ・有罪・無罪の決定 ・量刑判断 | ・裁判官と同等 ・有罪・無罪の決定 ・量刑判断 |
| 選任前の対応 | ・裁判長から裁判についての説明がある ・刑務所見学 | ・質問票記入後、裁判長等と面談 |
| 評決方法 | ・有罪には8名以上の賛成が必要 ・量刑は過半数の7名以上の賛成が必要 | ・多数決(ただし、裁判官・裁判員各1名以上の賛成必要) |
| 日当 | ・参審員:約400フラン(2002年現在・当時の日本円で約6000円) | ・裁判員、補充裁判員:1万円以内 ・裁判員候補者:8000円以内 |
| 審理日数 | ・1~2日 | ・平均3日(全体の7割程度) (ただし、事件の内容によって延長される) |
| 被告人の選択 | ・不可 | ・不可 |
| 上訴審の市民参加 | ・参審員を12名とした重罪刑法院で再度審議 | ・なし |
数字に若干の差異はあるものの、対象事件、裁判員(参審員)の構成、選任方法、権限については日仏間に大きな相違は見られません。一方、審理場所、裁判員(参審員)の任期、裁判所による選任前の対応、評決方法、上訴審における市民参加などの項目については多少の相違が見受けられます。
以下では、日本と大きな相違が見られる項目を中心に、いくつかの項目を取り上げて詳しく見ていきたいと思います。
2.フランス参審制度の特徴
(1)対象事件・審理場所
法定刑として10年を超える拘禁刑が定められている犯罪に係る刑事事件を管轄するのがフランスの重罪院です。日本では裁判員法2条に定められた犯罪に係る事件について、原則として地方裁判所において審理がなされます。裁判員法2条には、①死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件、②法律上合議体で取り扱わなければならない事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)を取り扱うと規定されていますので、重罪を取り扱うという意味においては日仏の対象事件に大きな差異はないと考えることができるかもしれません。しかしながら、フランスの刑罰には死刑がありません。一口に重罪とは言っても死刑のあるなしでは全く意味合いが異なってきます。そのような観点からすると、日仏の対象事件には大きな違いがあると評価しても差し支えはないと考えます。
日本では、第1審の地方裁判所でなされた裁判員裁判の判決に不服があって控訴された場合、第2審は、等裁判所において職業裁判官のみで審理がなされることになります。一方、フランスでは、重罪院は第1審だけでなく、控訴された場合の第2審も管轄します。控訴審では、参審員の数を増やしはするものの再度参審員裁判として審理がなされます。この点については(8)で後述します。
(2)任期
日本では任期は事件ごととされていますが、フランスでは開廷期とされ、任期制がとられています。大体2~3事件を担当し、本参審員になるか、補充参審員になるかは事件ごとにまた抽選で選ばれます((3)イ.過程の項目参照)。開廷し、閉廷するまで大体2~3週間が任期となります。
(3)選任方法
選任方法については日本と大きな違いは見られませんが、フランスの特色が表れている面もあります。項目ごとに見ていきましょう。
ア.資格
日本では裁判員は20歳以上の者の中から選ばれます。他方、フランスでは、参審員に選ばれるのは23歳以上の男女とされています。選挙権が与えられる18歳ではなく、被選挙権が与えられる23歳を境界線として採用しているのは日本と異なる発想と考えてよいのかもしれません。参審員という役割をそれだけ難しいものと考えているということでしょうか。加えて、フランス語の読み書き能力があり、政治的権利、民法上の権利および家族的権利を享有する市民であることが要求されます。
一方、参審員になることができない者としては次のような人々が挙げられます。
重罪により刑の言い渡しを受けた者または軽罪により6カ月以上の拘禁刑の言い渡しを受けた者、訴追を受けている者や勾留中の者、破産状態にある者や復権していない者、罷免された公務員(以上、フランス刑法典256条)。参審員との兼職禁止の職に就いている者(大臣、国会議員、憲法院の構成員、司法裁判所の司法官(裁判官・検察官)、行政裁判所の裁判官、商事裁判所の判事、警察官や監獄の職員、現役の兵士など(フランス刑法典255条)。また、70歳以上の者は請求により免除することができます。5年以内に参審員の職務を果たしたものは参審員の年度名簿から外されます。
イ.過程
日仏の選任までのプロセスを図にまとめてみました。

ウ.忌避
検察官と弁護士は、参審員を選ぶ上で「忌避」(フランス語でレキュゼ)をすることができます。忌避とは参審員候補者に対する指名と正反対の行動です。検察官は4人まで、弁護士は5人まで、彼らにとって不利に作用すると予想される候補者が参審員に選ばれることを拒むことができます。この場合に忌避理由の開示は求められず、例え理不尽な理由であっても許されています。例えば、性犯罪に関して女性参審員候補者を次々と忌避するなども許されます。
フランスの場合は抽選で使う木のつぼに参審員候補の名札が入れられた後、裁判長がつぼの中から手を入れてかきまわし、名札をとり名前を呼び、呼ばれた候補者は検察官と弁護士の間を通って法壇に向かいます。裁判長の横の席につくまでに、参審員にしたくないと検察官や弁護士が思った場合には「レキュゼ(忌避)」と叫び、叫ばれた者は参審員にはなれません。
エ.罰金
参審員に指名されながら正当な事由なしに開廷期日の呼び出しに応じない場合、1回目は15ユーロ、2回目は30ユーロ、3回目は75ユーロの罰金が科せられます。3回の呼び出しに応じなかった者は、将来にわたって参審員の職務行使をすることができません。日本の裁判員制度も理由なく無断で欠席した場合、10万円以下の過料を科されます。
(4)選任前の対応
希望者に対し、刑務所見学を行っている点が最大の特徴です。判決の言い渡しを受けた者がその後どのような処遇を受けるのか、予め知ってもらうことが審理の際に役立つと考えられているようです。
Youtubeにフランスの裁判所が参審員候補者に対して行っている刑務所見学及び事前ガイダンスの映像があげられています。ご参考までにURLを記載しますので興味のある方はご高覧ください。この参審員候補者に対するガイダンスは特に法制化されているものではなく、それぞれの重罪院の裁判長の裁量に任されています
http://www.youtube.com/watch?v=bv9WoUEUp0o
(5)評決方法
有罪についての評決には12名(参審員9名+裁判官3名)の過半数である7名ではなく、3分の2である8名以上の賛成が必要とされます。
量刑についての評決は、過半数7名の賛成でよいとされていますが、法定刑の最長期の刑を言い渡す場合にはやはり8名以上の賛成が必要とされます。
(6)日当
フランスの参審員の2002年当時の日当は、当時の日本円に換算して約6000円です。ただし、この金額は全国産業一律スライド賃金に準拠します。つまり、全国の全産業に一律に適用される最低賃金の増減に応じて、参審員の日当も引き上げられたり、引き下げられたりするということです。
(7)審理日数
多くの事件は、1日の審議で、長くても2日の審議で判決が言い渡されます。判決に関する評議をするときは判決が決まるまで集中して審議を行います。
(8)上訴審での市民参加
最近の最も大きな制度変更として、2001年から施行された参審裁判に対する上訴の導入が挙げられます。これまでは「市民の判断に誤りはない」ということから、参審裁判によって言い渡された判決に不服があっても上級の裁判所に上訴することはできませんでした。フランスの裁判は原則2審制(日本の最高裁に相当する「破棄院」もありますが、憲法判断を初めとする法律判断の誤りについてのみ判断します。日本の最高裁も原則は法律問題限定ですが、実際にフランスの破毀院では事実認定や、ときには量刑について判断することもあります)ですが、参審員の裁判だけがその例外でした。
ところがフランスも批准した欧州人権条約は、有罪判決を受けたものの権利として上級審の判断を仰ぐことが明記されています。そのため、フランスが参審裁判について上訴の権利を認めていない点は欧州人権条約違反になる可能性が出てきました。そこで、参審裁判の控訴審として、1審より3人多い12人の参審員による控訴審参審裁判の規定を新たに刑事訴訟法に設け、参審裁判による第2審を受けることができるようにしました。
しかしながら、フランスの参審裁判では、判決において判決理由が存在せず、それどころか公判記録自体が作成されません。したがって、控訴審参審裁判は純粋な「やり直し裁判」とならざるを得ず、その点が問題視されているようです。
(9)その他
ア.被告人・証人質問
参審員は予審判事から送られてくる調書を読むことはできません。そのためもっぱら調書を読んでいる裁判長が質問をすることになります。補充質問として参審員からの質問も認められていますが、直接質問するのではなく、裁判長の許可を得たうえで裁判長が行うことが多いようです。
イ.秘密保持義務
参審員による秘密の保持は非常に重要な義務にあたります。秘密保持義務は評議の秘密に限られます。つまり、評議室の中で起こる全ての事項が秘密保持義務の対象となり、職務終了後も評議の秘密を守らなればなりません。当該秘密保持義務に違反した場合、15000ユーロ以下の罰金及び1年以下の拘禁刑を課されます。
ウ.従業員と使用者の関係
使用者は、従業員が参審員の義務を果たすことを妨げてはなりません。例えば、参審員に選ばれたために欠勤したことを理由に行われた解雇は、実質的かつ重大な解雇理由がないと判断され補償金の支払義務が発生します。
参審員の職務行使期間中は、雇用契約は一時的に中断されます。このため、使用者は参審員の職務行使による欠勤中賃金を支払う義務はありません。そのかわり参審員に選ばれた従業員は、重罪院の書記課に申し立てを行うことにより、日当、旅費、宿泊費及び不払いの給与の一部に対する補償を受けることができます。
日本でも努力義務として記載はありますが(裁判員法100条)、フランスのように罰則規定はありません。
今回は、そのフランスの参審制度の特徴についてご報告させていただきました。フランス編・最終回となる次回では、制度の運用状況を概観しつつ、これまで見てきた内容を振り返り、若干の考察を加えたいと思います。次回もご期待下さい。
(裁判員ネット:清水慶太、皆川友佳)
………………………………………………………………………
【参考文献】
・神谷説子・澤康臣(2009)「世界の裁判員-14ヶ国イラスト法廷ガイド」日本評論社
・カティー・ボヴァレ、オリヴィエ・シロンディニ、大村浩子・大村敦志(翻訳) (2005)「ある日、あなたが陪審員になったら…-フランス重罪院のしくみ」信山社
・法務省編(2009)「平成21年度版 犯罪白書」
・最高裁判所事務総局編(2000)「陪審・参審制度 フランス編」
【参考URL】
・「フランス司法権の特徴と重刑陪審裁判」中村義孝(閲覧日:2010年3月12日)
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/05-23/nakamura.pdf
・47NEWS(閲覧日:2010年3月12日)
http://www.47news.jp/feature/saibanin/47news/094741.html
・各国の陪審参審制度の比較(社団法人日本監査協会が実施)(閲覧日:2010年3月14日)
http://www.iiajapan.com/system/forum/28_sanko2.pdf海外実情調査報告(閲覧日:2010年3月14日)
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/sonota/kaigai/pdfs/huransu.pdf
・フランスにおける参審制度(閲覧日:2010年3月26日)
http://www.lalettremensuelle.fr/spip.php?article3158
・独立行政法人 労働政策研究・研修機関(閲覧日:2010年6月9日)
http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2010_2/france_01.htm
フランス編(上)(下)はこちらから
裁判員経験者の全国ネットワーク設立へ-準備会合を開催しました
2010年7月5日

■裁判員経験者をつなぐ、全国的なネットワーク設立を目指して。
裁判員を経験した方たちの交流の場をつくり、心理的負担の軽減に役立ててもらうと同時に、その声を制度の改善に役立てるための全国的なネットワークの設立に向け、活動を開始しました。
昨日は(7月4日)、東京・四ツ谷でそのネットワーク作りのため準備会合を開き、裁判員を経験された4名の方をお招きし、話し合いを行いました。
この準備会合では、
・裁判員経験者の互いの交流の場の設定をして心理的負担の軽減にも役立てていただくこと
・市民の司法参加の中心である裁判員の貴重な体験を市民全体の貴重な共有資産となるようにすること
これらのテーマについての意見交換を行いました。裁判員経験者の皆さんからは様々な意見が活発に出され、非常に内容も濃かったことから、2時間の会合はあっという間に終了してしまいました。経験者の皆さんからは
「裁判が終わってから、周りの人に全然話すことができず、閉ざしていたものがあった。こういう場があると話しやすい。」
「裁判員をやった方と話す機会がたまたまあり、お互いに話すことでとても心が軽くなった。会って話す機会が本当に大切だと思った。」
「裁判が終わった後、不安に感じたことを話す機会がほとんどない。こういった話す機会があるだけでストレスが軽くなると思う。」
などの意見が出されました。裁判員を経験されると守秘義務の関係もあることから、どうしても「人に話してはいけない」「だから何も話せない」と思ってしまうことが多いようです。裁判員を経験した方には「評議」(判決を決めるための裁判官と裁判員による議論のことです)の内容やその他職務上知り得た秘密については守秘義務が課されます。しかし、その他の裁判の様子や雰囲気、感想などは守秘義務の対象にはなっていません。ですからそういった内容については自由に話しても良いのですが、市民としては「何か問題になったら後が怖いから一切言わない。しゃべらない」と思ってしまうケースが多いようです。しかしその結果、誰にも何も相談できずに色々な思いや不安を抱えたまま孤独に耐えることになってしまっている、というのがみなさんの現状のようです。そういった状況を少しでも解消し、負担感を和らげる場を設けるのはとても重要なことではないでしょうか。
さらに、
「責任をもって裁判員に参加できるような仕組みをもうけるべきと思う。そのためにも裁判員としての経験を共有するとか事前に理解を深めるような場があったほうが良い。」
「最初は裁判員などやりたくなかった。でも実際にやってからは人を見る価値観が変わった。深くなった。人の人生の背景を深く考えるようになった。制度の意義を感じる。こういう経験を多くの人に伝えたいし、共有できる方が良い」
といった意見が出されました。このような貴重な体験や意見が語られることによって、これから裁判員になるかもしれない私たち市民にとっても必ずプラスになるでしょう。そしてそういった蓄積の結果、制度の改善に活かすことにつながるのではないでしょうか。
このネットワーク作りには、弁護士や裁判員制度に関心を持って活動をしている東京や名古屋などの、いくつかの市民グループなどが集まって動き出したものです。私たちもその一員としてお手伝いしております。後援弁護士としては、元最高裁判事の浜田邦夫弁護士や日本弁護士連合会裁判員本部の牧野茂弁護士も参加しています。また、東京だけでなく全国に輪を広げていく予定です(名古屋でも7月3日に準備会合を開催しました)。
今後はホームページなどを利用しつつ、幅広く参加を呼びかけていきたいと思っています。
ご興味や関心をお持ちの方は、ぜひお問い合わせいただけましたら幸いです。
(裁判員ネット・坂上暢幸)
裁判員ネット・インターン体験記 その②
2010年6月30日
裁判員ネットでは、定期的に裁判員ネットで活動する学生の方をインターン生として募集しており、このたび第3期インターン生の募集を開始しました。今回も前回に引き続き、6月で修了を迎える第2期インターン生の「体験記」をお届けいたします。インターンに応募してみようと考えている学生さんは、ぜひ参考までにご一読下さい。
■責任ある仕事が成長と大きな達成感に
第2期インターン生・服巻美香さん(国際関係学部・3年)
2月から裁判員ネットの学生インターンとして、さまざまな活動をしてきました。1月に大学のゼミの教授に裁判員ネットの話を聞いて、インターン募集に応募してから、6月の学生インターン修了まで、本当にあっという間でした。決して楽ではありませんでしたが、充実した5ヶ月間でした。
インターン期間中の濃密で貴重な経験を通じて、自分のことながら、成長出来たと感じています。インターンの活動をすべて挙げるのは難しいですが、私が特に印象に残っていることを振り返ってみようと思います。
まず一つ目は「ディスカッション」です。インターンを通して、裁判員ネットの中では意見を出し合って裁判員裁判の課題や裁判傍聴で感じたことを互いに何度も議論します。しかし、自分の意見を人に伝えることは簡単なことではありません。特に、私はそういったことが得意ではありません。しかし、社会に出た時、それは必ず求められることだと思うのです。私にとって、そのような力を鍛える場として、裁判員ネットの中での議論はとても有意義な場でした。
また、インターンを通して裁判員裁判を傍聴したことも、重要な体験だったと思います。私は法学部の学生ではないので、法律についての知識もないまま、裁判員裁判を傍聴しましたが、様々なことを考ました。犯罪は誰の身にも起こり得ることで、犯罪自体が社会を映し出していることも感じました。裁判員ネットに関わっていなければ、裁判を傍聴することも、犯罪について深く考えることもなかったはずです。犯罪は自分とは関係のない所で起きていると思っていましたが、裁判員制度の導入によって、私たちが裁判員として選出され、「自分と関係のない所で起きた事件」について評議し、判決を下すかもしれなくなりました。このように犯罪について考える機会を継続的に得られて、本当によかったと思っています。
裁判員ネットは大学生のインターン生に、責任のある仕事を任せてくれることが最大の特徴だと思います。このことで、企業のインターンよりも濃い社会経験が出来たと思います。裁判員ネットの活動は、ダイレクトに社会に情報を発信していると実感できるものばかりでした。ホームページ上に載せる情報を集めて、自分の集めた情報がインターネットを通じて誰かの役に立っている。そしてその情報を見て、裁判員ネットに問い合わせがあったりすると、そのように実感できました。一方で、慣れないことばかりで、知識や実力不足から期日に間に合わなかったり、ミスをしたりすることも多々ありました。それでも、スタッフの皆さんがインターン生を信頼して仕事を任せて下さったことで、失敗しながらも成長することができました。最初は、自分で出来るとは思わなかった難しいことが、完成して形になったとき、大きな充実感を得ることが出来ました。
5ヶ月間のインターン期間を終えて、裁判員ネットに参加することが出来て本当によかったと思います。私にとってはインターンを最後まで続けることで、ひとつのことを成し遂げるという達成感を得ることができました。また多くの素晴らしい人に出会えることもできました。これらが、裁判員ネットに参加して得られた財産だと思っています。
■問題意識を持って、本気で取り組む
第2期インターン生・太田洋子さん(法学部3年)
私が裁判員ネットでの活動を通して学んだのは、問題意識をもつことの大切さ。仕事を任され、責任をもって遂行することの楽しさ。そして本気で取り組むことで得られる大きな充実感です。
これまでの学生生活は、なんとなく学校へ行き、テスト前にだけ勉強し、適当に遊んだりと、当たり障りなく過ごしていました。特に何かに問題意識を持つでもなく、強いて言うなら「次のバイト料が入るまでどうやって過ごすか」程度でした。しかし、裁判員ネットに参加してからはそのような生活が一変しました。裁判員制度について知ろうとして新聞などを読むようになりました。また仕事を任されることで、これまで無駄にすごした時間を有益に使うことができたり、懸命に文章を考えたり、実際に裁判を傍聴することで、施行された制度を放置することの怖さを感じたりといった具合に、生活とそのような生活によって自分が変わっていくことを感じました。どれもこれまでの学生生活では体験できなかったことです。それに加え、社会人の方々やレベルの高い学生たちと一緒に仕事をすることで、自分の未熟さを痛感すると同時に、もっと頑張ろう、成長しようという意欲も生まれました。
また、今回のインターンでは「組織の一員」として自分はどうあるべきかを考えるきっかけにもなりました。というのも、目立ちたがり屋な私は、自分が前に出ることばかり考えていました。しかし大切なのはそればかりではなくて、皆がどうやったらもっと輝けるか、仕事がし易いかなど、全体を見てどんなサポートが必要かを考えることがとても重要な役割だということに気付くことができました。また、チームでプロジェクトをスムーズに進めていくためには、細かく進捗の確認をして共有することや、まめに連絡を取り合うこと。そして細部まで段取りを組むなどの地道な作業が必要不可欠であり、時間や期限を守るという当たり前の事こそ重要だということも学べたと思っています。
裁判員ネットのインターンでの経験は、これからの生活、自分の成長に大変有益なものとなりました。もちろん逆に克服すべき課題も浮き彫りになりましたが、それも今後の指針として前向きに受けとめていきたいと思っています。これからも裁判員ネットでの活動で自己成長が続けられるよう努力していきたいと思っています。そして、皆さんのお役に立てるような情報を、広く発信していきたいと思っています。
■「論より証拠」で考え、やってみる
第2期インターン生・清水慶太さん(法学部・3年)
私が裁判員ネットにインターンとして参加しようと思ったのは本当に偶然で、サイトで募集をしているのを見かけて、内容自体もとてもおもしろそうなので、裁判員ネットの説明会に応募しました。ただ、説明会の前夜で直前の応募だったので受付をしてくれるか心配だったのですが、当時はまだ顔も知らない社会人スタッフの方に優しく対応してくださり、説明会に参加させてもらえました。
その説明会まで私自身、裁判員制度についてまだほとんど知りませんでした。私は将来法曹を目指すべく日々勉強に徹していましたが、その中で裁判員制度はあまりに時事すぎるのか話題に出ることは殆どなく、私も関心があるだけで、実際に現場で見ることはありませんでした。その時の私は、新聞や本でしか知る以上のことはなく、まさに裁判員制度については「机上の空論」でしかなかったのです。たしかに、法曹になった後で裁判員制度について勉強すれば良いかもとも考えたのですが、むしろ時間にある程度融通がきく大学生活の今こそ知っておくべきではないかと思い、参加することを決意しました。
そして、面接を経て、はれて2月から裁判員ネットにインターン生として活動することになりました。その最初の活動はある事件に関するイベントに参加し、取材報告としてレポートを書くことでした。このレポートはホームページで公開される予定でしたので、初めて公の場での文章作成でした。ですから下手なものは作れないと思い、練りに練った覚えがあります。『あそこではこう言っていたな、でもこうも言っていた。ならこういうことを示唆しているのでは?しかし・・・』などと集会に参加して1週間、時間があれば頭の中で考えていました。その文章がホームページにアップされたときはとても嬉しかったです。
幸先の良いスタートを切ったと感じながら、裁判員ネットの活動をしていきました。活動内容としては、前半は会議の参加、モニターとしての裁判員裁判の傍聴がメインでした。合宿を挟んで、後半は企画部会議、模擬評議、そしてフォーラムに向けての本格的な準備をメインに活動してきました。特に印象の残っているのは「模擬評議」です。そもそも模擬評議とは、裁判員ネットが開催している裁判員裁判をモニターとしての傍聴を一般から公募している企画の一貫として行われています。その内容は、傍聴したモニターの方たちが擬似裁判員として評議をするというものです。
ある事件に関する裁判でした。私はその事件では執行猶予判決が妥当であろう、そういうふうに話が進むだろうと思っていました。なぜなら、勉強しているときに得た知識では、似たような事件ではそのような判決が多かったと記憶していたからです。
しかしその中の意見として「執行猶予はなし」というものが出されたことは、大変意外であり、驚きでした。執行猶予ではなく実刑とした理由としては、「罪を犯したということを真に受け止めて欲しい」との理由でした。机の上での判断なら難なく「執行猶予」となったのに、現場を見て、さらに市民感覚が加わるとこうも違うのかと思いました。この事件は、結局は執行猶予判決となりましたが、市民が入ると実刑の場合もなくはないという裁判員制度の可能性を思い知らされました。
そのような驚愕が心に残る中、6月のフォーラムを無事に終え、インターンも修了となりました。多くの人との出会い、その中での連携プレー、自分の役割の自覚、社会における責任の重大性など毎日が新鮮でした。慣れてないことも多く、スタッフの方や同じインターン生に何度も迷惑をかけてしまいました。その度に落ち込んだりもしましたが、行動で取り返すことを念頭において何とかやり遂げました。
このインターンを通して一番学んだことは「論より証拠」、つまりやってみないとわからないということでした。先述の模擬評議がまさそうです。また日々の小さなことでも同様です。例えば、裁判員ネットではパソコンで議事録を取りながら会議を進めます。パソコンに習熟していなかった自分が、聞きとりながら議事録を作成できるなど思ってもみませんでした。こういった機会がなかったら社会に出るまでわからなかっただろうし、やろうとも思わなかったことでしょう。裁判員ネットのインターン生としての活動は、今後の人生でも大きな糧になると思います。
スタッフのみなさん、第2期インターン生のみんな、ありがとうございました。

インターン体験記その①はこちら
裁判員ネット・インターン体験記 その①
裁判員ネットでは、定期的に裁判員ネットで活動する学生の方をインターン生として募集しており、このたび第3期インターン生の募集を開始しました。インターン生は、裁判員制度市民モニター企画・運営を担当し、それを通して裁判やそこから見える社会の問題点について取材や議論を通して自分たちで考え、広く発信する活動をしています。
今回は、6月で修了を迎える第2期インターン生の「体験記」をお届けいたします。裁判員ネットでの活動に興味を持たれた方や、「インターンをやってみたい」と思われている学生のみなさんは、ぜひご一読ください。
■「社会」に肌で触れ、人がつながることを感じる
第2期インターン生・嶋田朋香さん(法学部・3年)
以前友人がインターンとして企業に実習に行った話を聞き、私もインターンをしたいと強く思うようになりました。昨年の12月、裁判員制度について議論をする授業に裁判員ネットの理事と学生スタッフが講師として授業に出向いてくださり、その説明の中でインターン生を募集していることを聞いたことが、私が裁判員ネットで活動するきっかけとなりました。
2月から本格的にインターン活動が始まりましたが、私は3月まで短期留学に行っていたので3月からの参加となりました。途中参加ということで、はじめはみんなに溶け込めるか、活動についていけるか不安に思っていました。また、3月の合宿では、事前課題である「諸外国の司法への市民参加についての研究」を発表するにあたり、自分の能力の低さ、努力不足な部分と向き合い、上手くできない自分が悔しく、落ち込むこともありました。
しかしこれらの活動を通して、他のインターン生にも「出来ない自分」に焦りや不安があるということが分かり、同期のメンバーとの交流が深まりました。そしてそれぞれの考えに刺激を貰い、もっともっと成長しようと思い、向上心を更に抱くようなりました。
刑務所見学や定期的な裁判傍聴は、こういった機会がなければ行くことはなかった所で、とても貴重な体験でした。またそれらの経験をもとに、裁判員ネットでは意見交換やディスカッションを行います。私は人前で意見を言うことは苦手だったのですが、自分の意見を述べる機会が多くなったことで、以前よりは苦手意識がなくなりました。
私はこのインターンを通じて責任感がついたと感じています。今までは何かを自分の責任で行うことはなく、問題があったときには何処か「人のせい」にしていたと思います。しかし、インターンシップの期間で、私が責任者となって作業をすることがあり、自分の責任で人を動かす場面がいくつかありました。
作業が効率よく進むような内容を決め、段取りを組み、そして人を動かすことがこんなにも大変だということを身をもって感じました。何より、責任者である自分がしっかりしていないと周りの人ははついてきてくれないこと、指示も出せないということを意識するようになりました。
私たちインターン生の集大成であるフォーラムは、一カ月前から急速に作業内容が増え、自分の作業が遅いことが原因で何度も徹夜をしたので体力的にも精神的にも疲れてしまったことがありました。しかし、どれも大切な作業であったため、それを乗り切るたびに自分の力になっていることがすごく実感できました。また、苦しくなったときは、同期のみんなが力を貸してくれ、作業を終わらせることができました。協力しあうことの大切さとありがたさを大変深く感じています。
このフォーラムは、皆がそれぞれに今まで積み上げたものや、たくさんの方のご協力があったからこそ完成できたのだと心から思っています。少しずつの努力や協力が集まるとこんなにも大きな力になるのだということも実感しました。そして自分が裁判員ネットで活動してきた意義、役割を強く認識することもできました。裁判員ネットは司法の現場と社会を結び、人々をつなぐ役割があります。そして自分もその一員として、役割を担うことで、大学と家との往復だけでは絶対に気付けなかった「現場」を肌で感じ、人と人がつながっていくことも実感することができました。このことに気づけたことが、私にとっての最大の成果だと思っています。

■ 発信力を鍛えた
第2期インターン生・竹越遥さん(社会科学部3年)
私が裁判員ネットを知ったのは昨年の11月。裁判員制度施行半年を期して行われた裁判員ネットの第1回フォーラムの時でした。内容の充実具合もさることながら、何よりも、賛成派と反対派が鋭く対立していることの多い裁判員制度について「賛成か反対かではなく、市民の視点で検証する」というスタンスで臨んでいることに好感を持ち、フォーラム直後のインターン説明会に参加。そのまま迷うことなく面接を受け、第2期インターン生として裁判員ネットの活動に参加することになったのでした。
裁判員ネットの活動に参加して得られたものは、裁判員制度についての知識だけではありません。私にとって最も大きかったのは、「発信する機会」を得たこと、そしてその中で「発信する力」を鍛えることができたことだと思っています。以下ではこの発信する機会と力について、具体的な場面ごとに述べてみたいと思います。
・会議、ディスカッション
裁判員ネットに参加したことで、裁判員制度(を含めた刑事司法全体)に関して自分が考えていることを議論する場を持つことができるようになりました。このことは私に、頭の中でぼんやりとしか形作られていなかった意見を論理的に整理し、相手に納得してもらえるように話すことを意識させるようになりました。またこのような場を得たことで、同じようなテーマについて考えている人の意見を聞く機会が格段に増え、一人で学んでいるのでは得ることのできない視野の広がりを感じることもできました。
・フォーラムの実施とパネルトークへの参加
去る6月12日、裁判員ネットは裁判員制度施行からの1年を検証するフォーラムを行いました。このフォーラムは、裁判員ネットが1年間の活動を通じて蓄積してきた知見を纏め上げ、ひとつの形にしたものです。それほど規模の大きなものではありませんが、自分たちの活動と社会とのつながりを確かに感じることができましたし、小さな組織であっても社会にとって大きな価値のあるものを発信することができるのだということを実感することができました。また、個人的には第2部でパネリストとして登壇し、一般の人々に向かって直接自分の意見を語るという貴重な体験をさせていただきました。裁判員ネットでの活動の中で多くの人の意見を吸収してきたこと、それを踏まえながら自分の考えを深めてきたこと、そして多様な形で「発信する力」を養ってきたこと。これらがあったからこそ、過度な緊張に襲われることもなく、自分の見解を述べることができたのだと思います。パネルトークへの参加によって、半年間で自分が何を得てきたのかを改めて確認することができました。このような機会をいただけたことに感謝しています。
裁判員ネットのスタッフは、学生・社会人問わずそれぞれが自分に割り振られた仕事に責任を持ち、それらに誠実に取り組みながら組織としての活動を作り上げています。インターン生も同様の責任感と誠実さを要求されますが、それに応えようと努力することで、学生生活を送っているだけでは為し得ない形での成長ができるように思います。このような真剣な団体に出逢えたこと、そこで刺激を受けながら共に活動できたことをとてもうれしく思います。
■苦しいながらも、協力して「力」をつける
第2期インターン生・門前真善さん(法学部3年)
今回、私は裁判員ネット2期インターンとして活動して多くのことを学ぶことができました。その中でも一番大切にしたいことは、「仲間との協力」です。私たちは一丸となってフォーラムの準備、運営をしました。ちらしの印刷や配布、発表内容の作成、パワーポイントや動画の作成、当日の会場セッティング、報告書作成などなど、みんなが分担して本番に臨みました。おかげさまで、フォーラムに来ていただいた方にも非常に満足していただき、自分たちでも価値あることができるのだと実感しました。こういった経験を学生時代にできたことで、きっとこれから僕にとっても、大きな支えになると思っています。
裁判員ネットの活動内容は実に様々で、裁判員裁判の傍聴だけでなく、合宿研修や刑務所見学なども行います。合宿研修では、事前に調べてきたレポートのプレゼンを行いました。こういった場では厳しく真剣な指摘や意見が出されました。その一方で皆で仲良く親睦会を行うこともり、非常に楽しい時を過ごすこともありました。こういったメリハリやけじめ、切り替えという大切なことを、言葉ではなく、行動で教えてもらったと感じています。これもまた、人生では大切なことだと思うので、これからも忘れずにいたいと思います。
裁判員ネットのインターンシップは、「確かな力」を育ててくれます。しかし力をつけようとすれば、苦しい時期や心がくじけそうになる時もあります。実際に僕は辞めたいと思ったこともありました。しかし、どんなに弱っていても、周りにいる『仲間』が励ましてくれて、大きな目標であるフォーラムを迎えることができました。フォーラムが終わった時に、いつも自分を支えてくれた人と喜びながら抱き合った時、涙が出そうになり、その日は早々に帰りました(笑)。
実は僕は本当に人の役に立てるのか、いつも不安を感じていました。しかし、裁判員ネットのインターンを最後まで通すことができたことでその不安が消えました。「自分でも力になれるのだ」と思えるようになり、そしてこれは、これから社会に出て活動するための大きな原動力になると思っています。裁判員ネットでインターンができたことは非常に良い体験でした。

■視野と行動範囲の広がりが私の変化に
第2期インターン生・皆川友佳さん(法学部3年)
私はインターンを始めてから「変わったね」「前向きになった」「発言するようになった」「自分から行動するようになった」と、よく言われるようになりました。私の中では性格的な部分は変わっていないと思っていますが、インターンが私の何かに影響したことは間違いありません。
このインターンで私が得たかったことは、プレゼンテーション能力や大学以外で得られる仕事上のスキルでした。しかし、裁判員ネットはそれ以上のものを私に与えてくれました。裁判員ネットでは、多くのディスカッションをします。ここでは皆さん自分の意見を持っている人が多いので、私は最初はあまり意見が出せず、ただ聞いているばかりでした。これではいけないと思い、「自分から発言をしよう」「みんなに聞いてもらおう」と考え、行動するようになりました。まだまだかもしれませんが、自分の意見を伝えるようになってきたと思います。また皆さんの意見を聞くことで「このような考えもあるのか」と視野が広がり、私の中での考えも発展させることができました。
インターン生はフォーラム(イベント)の企画運営を担います。この企画を通して得たことも沢山ありました。計画しそれを実行することの大変さ。臨機応変な対応。そして何といっても行動力がどれだけ大切なのかということがわかりました。中には今までやったこともないような仕事も沢山ありました。会場周辺の地域でちらしを配布したり、大学関係者の方々にお願いをしに行ったりと、私はそれまでこういったことをした経験はありませんでした。でも「イベントの成功のために」と思い、頑張ることができました。フォーラム当日が近づくにつれてとても忙しく大変でしたが、その達成感は忘れられません。
この活動を通して私が実感したことは、私たちがインプットしたものを社会に対してアウトプットすることで、それを評価してくださり、また、受け止めてくださる方々が大勢いらっしゃるということです。ある講演会を見たインターン生がその感想をホームページに載せたところ、その文章が他のところでも引用され、またその講演した先生もホームページをご覧になっていたということを知り、私はとても驚きました。自分が情報得るだけでなく、それを他の人にも伝えることに大きな魅力を感じています。これからもそのような活動をしていきたいと強く思っています。
裁判員ネットは、私の視野や行動する範囲を広げてくれました。そういった広がりから、私の変化につながり、周りの人に「変わったね」と思われたのかもしれません。この活動は私にとってかけがえない財産となりました。
インターン体験記その②はこちら
裁判員制度の課題を指摘:フォーラム「検証・裁判員制度の1年」開催報告①
2010年6月26日

裁判員ネットは裁判員制度開始より1年が経過したことを受けて、6月12日(土)東京都板橋区の大東文化大学・大東文化会館にて、フォーラム「検証・裁判員制度の1年~市民から見た裁判員裁判」を開催しました。
当日は大変多くの皆さまにご来場いただきまして、本当にありがとうございました。
昨年より裁判員ネットは「裁判員制度市民モニター」を行ってきましたが、このイベントの前半・第1部では、各地の市民モニターのみなさんから集まったデータをもとに、裁判員制度の検証報告を行いました。次に後半の第2部では前半に出されたテーマに関してのトークセッションが行われました。このトークセッションでは、裁判員経験者や裁判員裁判を経験した弁護士、市民モニター経験者を交えての意見交換が行われました。
このコラムでもイベント当日の様子について、皆さまにお伝えしたいと思います。まず今回はフォーラム前半(第1部)のご報告です。
■この1年間の裁判員裁判と市民モニターの実施状況
まず第1部は裁判員ネット理事・坂上の進行のもと、これまでの裁判員裁判の状況について概観する調査報告と、モニターから集まった声をもとにした個別の裁判事例の報告を行いました。
はじめに大東文化大学の皆川友佳さんよりこれまでの全国の裁判員裁判の実施状況、報道機関による裁判員経験者のアンケート結果、東京都内における裁判員裁判の実施状況等についての説明がなされました。
・これまでの裁判員裁判実施状況は?
この1年間に全国で506件の裁判員裁判が実施され(2010年5月20日現在)、裁判員経験者の数は3070名となっています(注1)。裁判員裁判の判決傾向としては、「執行猶予」の場合「保護観察つき」のケースが増えたことが上げられます。これは被告人の「社会復帰」「更正」というものに市民たる裁判員は関心を寄せていることが伺えます。その一方では、性犯罪事件の場合刑が重くなる(いわゆる厳罰化)の傾向が見られることが報告されました。
私たちの調査によれば、東京都内における裁判員裁判で判決が出された裁判は、5月20日までに62件ありましたが、このうち強姦致傷、強制わいせつ致傷、強盗強姦などの性犯罪に関する事件は22件でありました。これは全体の約3割が性犯罪に関係する裁判であるということができます。このことから都内で私たちが裁判員になった場合、現在のところ、約3分の1の確率で性犯罪に関する裁判の審議を担当する可能性があるということが指摘できます。
・裁判員制度市民モニター実施報告
裁判員ネットでは裁判員裁判を市民の皆さんが傍聴し、評価し、考える、「裁判員制度市民モニター」を実施しています。この1年間に全国で506件の裁判員裁判が実施されました(2010年5月20日現在)。このうち裁判員ネットへ寄せられたモニタリング結果は90件。23件の裁判を57名のモニターが傍聴しました(1人の方が複数の裁判を傍聴しているため、このような数字になります)。

■市民から見た裁判員裁判の課題
・個別ケースから見る裁判員裁判
次にこのフォーラムでは2つの具体的な裁判事例から裁判員裁判の課題点についての報告を大学生の稲田康平さん、竹越遥さん、服巻美香さんと坂上より行いました。
事例の1つ目としては、高額医療費を苦にした家族殺人事件(ケース1)。2つ目としては少年による性犯罪事件を取り上げました(ケース2)。ケース1はモニターの皆さんから寄せられた声として「身近な事件」「自分や家族の中でも起こりえる話」と受け止めた方が多かったことから、今回取り上げました。また、ケース2は少年による性犯罪事件でしたが、先ほど報告したとおり、性犯罪に関係する裁判も今後考えなくてはならないテーマであることから今回取り上げました。
ここではそれぞれの裁判の進行を、時系列に沿って「法廷で示された証拠」「証人尋問」「被告人質問」や「論告・弁論」「評議」(傍聴したモニターによって自分が裁判員だったらという仮定で判決を検討する‘模擬評議’を実施しておりその内容について)「判決」など、裁判の手続きや流れごとに詳細に分析し、それについての報告を行いました。この2つの事例から以下のような裁判員裁判の課題点が浮び上がりました。

・浮び上がった課題
ケース1では裁判を傍聴した多くのモニターから「証拠が足りないと感じる」との声が多く上がりました。また、「全体を通して被告人本人の事件前や事件時の実像が見えない部分がある」との指摘も出ました。さらに「事件の背景や全体像がつかめないままジャッジだけ迫られるのでは?」「これで決めてしまって良いのか?」といった率直な疑問と不安を訴える声もありました。ちなみにNHKがおこなった裁判員経験者215人へのアンケート調査(注2)によると、「判断材料が足りなかった」「どちらかと言うと足りなかった」という答えが、あわせて19%、5人に1人の割合であり、「証人が足りない」「背景をもっと詳しく知りたかった」という声が多く寄せられています。今回の市民モニターと同様の感想を抱いていた裁判員が一定以上いることが指摘できます。

またケース2を傍聴したモニターからは「なぜそこへの言及が必要なのか」という、「前提」の説明を求める声が多数あがりました。法廷で語られる内容の「ポイント」が強調されなければ、それが重要なのか、そもそも判断の材料として採用すべきなのかがわかりません。市民に対しては「その事実が重要である理由」「前提」を丁寧に説明しアピールすることが求められます。ですから「弁護士・検察の力量によって受け止め方が変わってしまうのでは」という指摘もありました。また市民の性犯罪への量刑感覚も今後検討すべき課題といえます。今回の裁判を傍聴した多くのモニターからは実際の判決内容が「軽すぎるのでは」という感想が相次ぎました。ケース2の判決は、過去の裁判の量刑傾向の範囲内におさまっていたことから、「評議のなかでどのような議論がされたのか知りたい」「どの程度市民の声が反映されたのか疑問」といった声もありました。
さらに、ケース2だけではありませんでしたが、裁判員への参加態度に関する指摘もありました。中には「眠っているように見えた裁判員がいた」「裁判員にはもっと質問をしてほしい」「裁判員の存在感が薄い。せっかくの裁判員制度の意味がない。」という厳しい意見もありました。
このほかにも様々な角度から、裁判員ネットが収集したデータや、市民の皆さんから寄せられました声をもとにその現状と課題についての報告を行いました。
次回以降、このコラムではフォーラム後半についてのご報告を致します。(つづく)
(裁判員ネット理事:坂上暢幸)
………………………………………………………………………
(注1)共同通信ニュース(5/21)を参照(http://www.47news.jp/CN/201005/CN2010052001000680.html)[閲覧日20105/30]
(注2)NHK・ホームページ「解説委員室」(5/24)を参照。(http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/49420.html)[閲覧日2010/6/1]
「裁判員裁判市民モニター2010・春」実施報告~傍聴と模擬評議を行いました
2010年5月28日

裁判員制度がスタートしてから1年が経過しました。
裁判員ネットでは実際の裁判員裁判を私たち市民の視点で見る「裁判員制度市民モニター」を実施しております。裁判員裁判の法廷では、傍聴している人も裁判員とほぼ同じ情報を得ることができます。この「モニター」は裁判員裁判を傍聴することで、市民の声を集め、裁判員裁判の検証や提言に活かそうという意図から昨年より実施して参りました。
また、これまでモニターを続けてきて実感していることですが、実際に裁判員裁判を傍聴することで、テレビのニュースや新聞の記事を通してでは決してわからないことや、現場に足を運ぶことではじめて分かることが本当にたくさんあります。
そんな気づきや発見を一人でも多くの方と共有し、一緒に考えることができたらという願いも込めて、私たちはこの裁判傍聴市民モニターを企画・実施しております。
今月は「裁判員裁判市民モニター2010・春」と題しまして5月17日(月)~20日(木)の期間、東京地裁にて裁判員裁判の「傍聴」と「模擬評議」を合わせた企画を実施致し、多くのみなさんにご参加いただきました。
今回傍聴したのは、昨年発生した性犯罪事件に関する裁判員裁判でした。5月21日はちょうど裁判員制度が施行1年の節目のタイミングと重なることになりましたが、学生をはじめ社会人や主婦の方など多くの市民の方々にご参加頂き、その上でたくさんのご意見・ご感想を頂きました。
『はじめて「裁判」を傍聴してみて裁判は自分とは程遠い世界の話だと思ったが、実際に傍聴してみてそうではないと思った。司法に関心をもてるようになった。』(大学3年生)
『非常に貴重な体験をした。裁判の傍聴は初めてで「重い」ということを非常に感じた。』(会社員)
『裁判の傍聴は初めてであったが、これまでの考えを改めさせる体験となりました。』(主婦)
またこの期間中の5月19日(水)には「模擬評議」を実施しました。
「評議」とは裁判において「判決をきめる議論」のことを言いますが、実際の裁判員裁判では裁判員の方と裁判官の間で行われます。この評議の内容には守秘義務が課されることから、その議論の内容は明らかにはされません。つまり市民である裁判員の方たちがどういったプロセスで判決に至ったのかはわからないのです。そこで、裁判員ネットでは「模擬評議」を行っています。
「模擬評議」とは実際の裁判員裁判を傍聴した市民のみなさんで、その裁判の判決を考えるというものです。裁判員裁判では、基本的には傍聴席からも裁判員とほぼ同じ情報を得ることができます。ですから、その模擬評議の議論の内容やプロセスを追うことで、実際の裁判員のみなさんが議論したであろう筋道を予想することや想像することができます。もちろん傍聴者による議論ですから、実際の裁判官や裁判員の議論とは違うものです。しかし、少なくとも議論のポイントとなった部分の「仮説」を出すことはできるのではないかと考えています。
この事件に関して、私たちの模擬評議では参加者全員で話し合った結果、懲役8年という結論を出しました。一方、翌日出された実際の判決は懲役6年6ヶ月であり、私たちが出した判決とズレがありました。
私たちの模擬評議では最終的な結論に至るまで、なかなか意見の一致が見られませんでした。それだけ意見が分かれたのですが、もしかすると実際の裁判員や裁判官のみなさんも意見が分かれたのではないでしょうか?もしそうだとするならば、過去の判決傾向などをどれだけ考慮するかということが議論のポイントになったのかもしれません。勿論これはあくまでも仮説でしかありませんが、そういった議論のポイントを蓄積し、それを市民のみなさんと共有することで、いざ自分が裁判員になった時に考えるべき視点やポイントをあらかじめ備えることができるのではないでしょうか?
いずれにしてもこの評議に関してもまだまだ考えるべきテーマはありそうです。
この「裁判員裁判市民モニター」で頂いたご意見や感想は6月12日(土)に東京都内にて開催する裁判員制度の1年を検証するフォーラムにおいて発表する予定です。
一つ一つの裁判は被告人の人生を大きく左右し、国の刑罰が下るという重いものです。そしてこれから私も含めて裁判員としてその決定を委ねられる可能性もあります。自分も裁判員になるかもしれない裁判員裁判を、自分たちの目で見て、耳で聞く。その上で、私たちがどのように犯罪や社会の課題と向き合うのか。また裁判員裁判をどうしていけばよいのかを考える。そのきっかけとして、今後も市民モニターを定期的に実施し、裁判員制度に対する市民の「生の声」を皆さんに発信していきたいと思っています。
(裁判員ネット・稲田康平)


















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