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第12回裁判員制度フォーラム「市民から見た裁判員裁判」開催しました

2015年5月21日

2015年5月21日(木)は裁判員制度がスタートしてから、ちょうど6年になります。それに先立つ5月17日(日)、東京都千代田区・日比谷図書文化館にて、第12回裁判員制度フォーラム「市民から見た裁判員裁判」を開催しました。当日は大勢の皆さまにご来場いただきました。本当にありがとうございました。

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今回のフォーラムで12回目となります。これも皆さまのご声援・ご協力があってのことです。あらためてお礼を申し上げます。

全国初の裁判員裁判と同時にスタートした「裁判員裁判市民モニター」には、この6年の間に303名の方が参加しました。モニタリング件数は595件になります。また、裁判員裁判を傍聴した後に行っている「模擬評議」は31件実施し、これまでに延べ263名の方が参加しました。

■第1部レポートセッションより

このフォーラムの第1部・レポートセッションでは、裁判員制度市民モニターとして裁判員裁判の傍聴・模擬評議・意見交換会を行った事例を詳しく取り上げ、モニター参加者からの意見を紹介しながら「市民の視点から裁判員制度がどのように見えているのか」を具体的に検証しました。そして実際に市民モニターに参加した学生メンバーが登壇し、自身の経験を踏まえてながら報告を行いました。

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現在、裁判員裁判のおよそ1割が通訳を必要とする外国人の被告人の裁判です。さらに外国人が被害者や証人になったりするケースもあり、全体としてはもっと多く通訳が必要とされていると聞きます。

こうした実状がある上に、今回私たちも「法廷通訳」が必要とされる裁判を傍聴したことから、法廷おける「通訳」の課題についてに焦点を当て、市民モニターの皆さんから、「市民が裁判員として適正な判断を行うためには、適切な法廷通訳」が行われることが必要であること。また、それが客観的にも保障されることがきわめて重要であると指摘する声が寄せられていることなどを紹介しました。

■第2部トークセッションより

続く第2部ではゲストをお迎えして、トークセッションを行いました。ゲストには、裁判員経験者の古平衣美さん、日本司法通訳士連合会の天海浪漫さん、弁護士の石垣正純さん。コメンテーターに裁判員ネット代表・大城聡。コーディネーターは坂上が行いました。

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・法廷通訳をめぐる課題

まず法廷通訳をめぐる現状と課題について通訳士の天海さんよりお話をしていただきました。現在、法廷通訳として裁判所に登録されるには、語学力については自己申告であり、面接、書類提出だけで登録され、資格認定制度は、設けられていません。つまり裁判という公平な審議が行われるべき場で、通訳人が正しく通訳をしているかを保障・検証する十分な仕組みが整っていないのが実状であるとのことです。そこで、通訳技術を保障するため、「認定試験」を通過した者のみが司法通訳ができる仕組みをつくることを目指している、といったお話をしていただきました。

また、外国人が関与する事件を多く担当されている石垣さんからは、外国人事件特有の難しさ特に言葉だけでなく「文化の壁」からくる裁判の難しさについてお話いただきました。

こうしたお話を伺う中で、グローバル化・国際化が進む現在、多様な人々が同じ地域で暮らす社会になりつつあり、裁判もまた、多様な人々が関わることを前提にしたシステムにしていくことが必要なのだと感じました。

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・裁判員制度の意義・意味を考える

次にテーマを拡げ「裁判員制度の意味・意義を考える」と題して、意見交換を行いました。この中で裁判員経験者の古平さんから「世の中で起こっている事件について他人事ではなく、まさに自分たちの社会のことであるという認識を持つようなった。裁判員を務めて犯罪が身近な問題として感じるようになった。こうした感覚が経験者を通して広がることで、社会全体で犯罪について考えるようになり、その結果として犯罪の抑止につながるのではないか」というお話をしていただきました。またそれぞれの立場から捉えた制度の意義・意味について語っていただきました。

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・三審制と市民参加のあり方をめぐって

さらに一歩深めるために、「裁判員制度の意義」と「現在の上級審のあり方」をどのように受け止めているかについて、客席の皆さんにも参加していただきながら議論をしました。ここでは皆さん全員に、赤と青の2色のカードを配布し、「自分が裁判員を務めた裁判の判決が、職業裁判官のみの上級審で変更された(覆った)場合、あなたは納得できますか。それとも納得できませんか。」という二者択一の問いかけをさせていただきました。

そして会場の皆さん全員に「納得できる場合は青」「納得できない場合は赤」の色カードを提示していただき、その理由ついても発言していただきました。会場からは「納得できる。裁判を慎重に行うための三審制なのであり、裁判員裁判もそのひとつの役割として位置づけられている」といった意見がある一方で、「そうは言うものの何か納得できない。市民参加というのであれば、上級審にも市民が入って良いのでは」といった意見も出されました。更に、2色両方のカードを挙げる方も複数いらっしゃいました。その理由として「ケースによる。例えば刑が軽くなるなど、被告人にとって有利な形で変更されるような場合は納得できるが、そうでない場合は納得できないこともある」とする意見もありました。

こういった意見に対して裁判員経験者の古平さんからは、「なぜ変更されるに至ったのか。その理由について十分な説明があれば納得できると思う。しかし現状では、裁判員は裁判終了後は何も知らされない。そこである日、報道などでポンと結果だけ知らされる。そういう状況では、すんなり納得するのは難しいのではないか。もう少し裁判所は裁判員に対して情報を提供すれば良いのではないか」との発言がありました。

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今回、会場の皆さまに「納得できる・できない」という二者択一の質問を迫る、やや強引な問いかけをさせていただきました。これは敢えてこのような質問をすることで、「揺れ」や「葛藤」というものを抱えつつ「何のための制度なのか」というより本質的な問いを、多くの方々と一緒に深めながら考える機会にしたいと思ったためです。フォーラム終了後、ある参加者の方から「最初は青を挙げたが、他の人の意見を聞くうちに本当にそれで良いのかと、すごく迷った。でも初めて制度の意義について考える機会になった」という声を伺いました。

こうした問いかけから、制度の意義や意味を深めるきっかけになることができればと考えています。

裁判員制度は市民参加の制度です。市民は新たな「司法の担い手」となりました。私たち市民にとって、もはや刑事司法は「他人事」ではなく、「自分たちの問題」して主体的に考えていくことが必要です。市民が、裁判員制度の実状を知り、意義を考え、この制度が本当に社会に必要なのかどうかということも含めて議論することによって、主体的な参加が実現するのだと考えます。

これからも裁判員ネットでは、裁判員制度フォーラムや講座・出張授業などを通じ、多くの皆さんとともに市民の視点から裁判員制度について考える機会をつくっていきたいと思います。

次回・第13回フォーラムは2015年11月中旬頃を予定しております。

今後ともお力添えのほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

(裁判員ネット・坂上暢幸)



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