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【シリーズ・海外の司法参加】第2部:フランス編(中)-フランス参審制度の概要

2010年7月14日

裁判員ネットでは、諸外国の市民の司法参加について調査する活動を行っています。日本の裁判員制度と、世界の国々の裁判制度を比較・検討しながら、 市民の司法参加について海外にも視野を広げることで、日本の裁判員制度についての議論をより深めることができるのではないでしょうか。この連載では、韓国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリアの7カ国を取り上げ、それぞれの国につき3回程度に分けて定期的に連載をしていく予定です。各国の事情を知ることで日本の裁判員制度を考えるうえで参考になることが数多くあると思います。どうぞ最後までご覧いただければ幸いです。

 

フランス編(中) フランス参審制度の概要

「シリーズ・海外の司法参加」。第2部ではフランスを取り上げています。前回はフランスにおいて参審制度が導入された背景を見てきました。フランスではフランス革命後に導入された陪審制度が根付かず、結局参審制度へと移行することになったのでした。今回はいよいよフランスの参審制度の中身を見ていきたいと思います。

1.フランス参審制度の概要~日本とフランスの違い

まずはフランスの参審制度と日本の裁判員制度の概要を比較した一覧表をご覧いただきたいと思います。 

フランス【参審制度】日本【裁判員制度】
対象事件・重罪(無期刑、懲役・禁固10年以上の犯罪)に係る事件
*重罪には死刑は含まれない
・裁判員法2条に定めがある犯罪に係る事件
①死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
②法律上合議体で取り扱わなければならない事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの
審理場所・重罪院・原則として地方裁判所
構成・裁判官3名
・参審員9名
・裁判官3名(又は1名)
・裁判員6名(又は4名)
任期・開廷期(2~3週間)任期制・事件ごと(約3日間)
選任方法・23歳以上
・選挙人名簿から無作為抽出
・20歳以上
・選挙人名簿から無作為抽出
予備人員・補欠2~3名・補充裁判員を数名設ける
権限・裁判官と同等
・有罪・無罪の決定
・量刑判断
・裁判官と同等
・有罪・無罪の決定
・量刑判断
選任前の対応・裁判長から裁判についての説明がある
・刑務所見学
・質問票記入後、裁判長等と面談
評決方法・有罪には8名以上の賛成が必要
・量刑は過半数の7名以上の賛成が必要
・多数決(ただし、裁判官・裁判員各1名以上の賛成必要)
日当・参審員:約400フラン(2002年現在・当時の日本円で約6000円)・裁判員、補充裁判員:1万円以内
・裁判員候補者:8000円以内
審理日数・1~2日・平均3日(全体の7割程度)
(ただし、事件の内容によって延長される)
被告人の選択・不可・不可
上訴審の市民参加・参審員を12名とした重罪刑法院で再度審議・なし

数字に若干の差異はあるものの、対象事件、裁判員(参審員)の構成、選任方法、権限については日仏間に大きな相違は見られません。一方、審理場所、裁判員(参審員)の任期、裁判所による選任前の対応、評決方法、上訴審における市民参加などの項目については多少の相違が見受けられます。
以下では、日本と大きな相違が見られる項目を中心に、いくつかの項目を取り上げて詳しく見ていきたいと思います。

2.フランス参審制度の特徴
(1)対象事件・審理場所

法定刑として10年を超える拘禁刑が定められている犯罪に係る刑事事件を管轄するのがフランスの重罪院です。日本では裁判員法2条に定められた犯罪に係る事件について、原則として地方裁判所において審理がなされます。裁判員法2条には、①死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件、②法律上合議体で取り扱わなければならない事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)を取り扱うと規定されていますので、重罪を取り扱うという意味においては日仏の対象事件に大きな差異はないと考えることができるかもしれません。しかしながら、フランスの刑罰には死刑がありません。一口に重罪とは言っても死刑のあるなしでは全く意味合いが異なってきます。そのような観点からすると、日仏の対象事件には大きな違いがあると評価しても差し支えはないと考えます。
日本では、第1審の地方裁判所でなされた裁判員裁判の判決に不服があって控訴された場合、第2審は、等裁判所において職業裁判官のみで審理がなされることになります。一方、フランスでは、重罪院は第1審だけでなく、控訴された場合の第2審も管轄します。控訴審では、参審員の数を増やしはするものの再度参審員裁判として審理がなされます。この点については(8)で後述します。

(2)任期

日本では任期は事件ごととされていますが、フランスでは開廷期とされ、任期制がとられています。大体2~3事件を担当し、本参審員になるか、補充参審員になるかは事件ごとにまた抽選で選ばれます((3)イ.過程の項目参照)。開廷し、閉廷するまで大体2~3週間が任期となります。

(3)選任方法

選任方法については日本と大きな違いは見られませんが、フランスの特色が表れている面もあります。項目ごとに見ていきましょう。

ア.資格
日本では裁判員は20歳以上の者の中から選ばれます。他方、フランスでは、参審員に選ばれるのは23歳以上の男女とされています。選挙権が与えられる18歳ではなく、被選挙権が与えられる23歳を境界線として採用しているのは日本と異なる発想と考えてよいのかもしれません。参審員という役割をそれだけ難しいものと考えているということでしょうか。加えて、フランス語の読み書き能力があり、政治的権利、民法上の権利および家族的権利を享有する市民であることが要求されます。
一方、参審員になることができない者としては次のような人々が挙げられます。
重罪により刑の言い渡しを受けた者または軽罪により6カ月以上の拘禁刑の言い渡しを受けた者、訴追を受けている者や勾留中の者、破産状態にある者や復権していない者、罷免された公務員(以上、フランス刑法典256条)。参審員との兼職禁止の職に就いている者(大臣、国会議員、憲法院の構成員、司法裁判所の司法官(裁判官・検察官)、行政裁判所の裁判官、商事裁判所の判事、警察官や監獄の職員、現役の兵士など(フランス刑法典255条)。また、70歳以上の者は請求により免除することができます。5年以内に参審員の職務を果たしたものは参審員の年度名簿から外されます。

イ.過程
日仏の選任までのプロセスを図にまとめてみました。

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ウ.忌避
検察官と弁護士は、参審員を選ぶ上で「忌避」(フランス語でレキュゼ)をすることができます。忌避とは参審員候補者に対する指名と正反対の行動です。検察官は4人まで、弁護士は5人まで、彼らにとって不利に作用すると予想される候補者が参審員に選ばれることを拒むことができます。この場合に忌避理由の開示は求められず、例え理不尽な理由であっても許されています。例えば、性犯罪に関して女性参審員候補者を次々と忌避するなども許されます。
フランスの場合は抽選で使う木のつぼに参審員候補の名札が入れられた後、裁判長がつぼの中から手を入れてかきまわし、名札をとり名前を呼び、呼ばれた候補者は検察官と弁護士の間を通って法壇に向かいます。裁判長の横の席につくまでに、参審員にしたくないと検察官や弁護士が思った場合には「レキュゼ(忌避)」と叫び、叫ばれた者は参審員にはなれません。

エ.罰金
参審員に指名されながら正当な事由なしに開廷期日の呼び出しに応じない場合、1回目は15ユーロ、2回目は30ユーロ、3回目は75ユーロの罰金が科せられます。3回の呼び出しに応じなかった者は、将来にわたって参審員の職務行使をすることができません。日本の裁判員制度も理由なく無断で欠席した場合、10万円以下の過料を科されます。

 (4)選任前の対応

希望者に対し、刑務所見学を行っている点が最大の特徴です。判決の言い渡しを受けた者がその後どのような処遇を受けるのか、予め知ってもらうことが審理の際に役立つと考えられているようです。
Youtubeにフランスの裁判所が参審員候補者に対して行っている刑務所見学及び事前ガイダンスの映像があげられています。ご参考までにURLを記載しますので興味のある方はご高覧ください。この参審員候補者に対するガイダンスは特に法制化されているものではなく、それぞれの重罪院の裁判長の裁量に任されています
http://www.youtube.com/watch?v=bv9WoUEUp0o

 (5)評決方法

有罪についての評決には12名(参審員9名+裁判官3名)の過半数である7名ではなく、3分の2である8名以上の賛成が必要とされます。
量刑についての評決は、過半数7名の賛成でよいとされていますが、法定刑の最長期の刑を言い渡す場合にはやはり8名以上の賛成が必要とされます。

(6)日当

フランスの参審員の2002年当時の日当は、当時の日本円に換算して約6000円です。ただし、この金額は全国産業一律スライド賃金に準拠します。つまり、全国の全産業に一律に適用される最低賃金の増減に応じて、参審員の日当も引き上げられたり、引き下げられたりするということです。

(7)審理日数

多くの事件は、1日の審議で、長くても2日の審議で判決が言い渡されます。判決に関する評議をするときは判決が決まるまで集中して審議を行います。

(8)上訴審での市民参加

最近の最も大きな制度変更として、2001年から施行された参審裁判に対する上訴の導入が挙げられます。これまでは「市民の判断に誤りはない」ということから、参審裁判によって言い渡された判決に不服があっても上級の裁判所に上訴することはできませんでした。フランスの裁判は原則2審制(日本の最高裁に相当する「破棄院」もありますが、憲法判断を初めとする法律判断の誤りについてのみ判断します。日本の最高裁も原則は法律問題限定ですが、実際にフランスの破毀院では事実認定や、ときには量刑について判断することもあります)ですが、参審員の裁判だけがその例外でした。
ところがフランスも批准した欧州人権条約は、有罪判決を受けたものの権利として上級審の判断を仰ぐことが明記されています。そのため、フランスが参審裁判について上訴の権利を認めていない点は欧州人権条約違反になる可能性が出てきました。そこで、参審裁判の控訴審として、1審より3人多い12人の参審員による控訴審参審裁判の規定を新たに刑事訴訟法に設け、参審裁判による第2審を受けることができるようにしました。
しかしながら、フランスの参審裁判では、判決において判決理由が存在せず、それどころか公判記録自体が作成されません。したがって、控訴審参審裁判は純粋な「やり直し裁判」とならざるを得ず、その点が問題視されているようです。

(9)その他

 ア.被告人・証人質問
参審員は予審判事から送られてくる調書を読むことはできません。そのためもっぱら調書を読んでいる裁判長が質問をすることになります。補充質問として参審員からの質問も認められていますが、直接質問するのではなく、裁判長の許可を得たうえで裁判長が行うことが多いようです。

イ.秘密保持義務
参審員による秘密の保持は非常に重要な義務にあたります。秘密保持義務は評議の秘密に限られます。つまり、評議室の中で起こる全ての事項が秘密保持義務の対象となり、職務終了後も評議の秘密を守らなればなりません。当該秘密保持義務に違反した場合、15000ユーロ以下の罰金及び1年以下の拘禁刑を課されます。

ウ.従業員と使用者の関係
使用者は、従業員が参審員の義務を果たすことを妨げてはなりません。例えば、参審員に選ばれたために欠勤したことを理由に行われた解雇は、実質的かつ重大な解雇理由がないと判断され補償金の支払義務が発生します。
参審員の職務行使期間中は、雇用契約は一時的に中断されます。このため、使用者は参審員の職務行使による欠勤中賃金を支払う義務はありません。そのかわり参審員に選ばれた従業員は、重罪院の書記課に申し立てを行うことにより、日当、旅費、宿泊費及び不払いの給与の一部に対する補償を受けることができます。
日本でも努力義務として記載はありますが(裁判員法100条)、フランスのように罰則規定はありません。

 

今回は、そのフランスの参審制度の特徴についてご報告させていただきました。フランス編・最終回となる次回では、制度の運用状況を概観しつつ、これまで見てきた内容を振り返り、若干の考察を加えたいと思います。次回もご期待下さい。

(裁判員ネット:清水慶太、皆川友佳)

 

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【参考文献】
・神谷説子・澤康臣(2009)「世界の裁判員-14ヶ国イラスト法廷ガイド」日本評論社
・カティー・ボヴァレ、オリヴィエ・シロンディニ、大村浩子・大村敦志(翻訳) (2005)「ある日、あなたが陪審員になったら…-フランス重罪院のしくみ」信山社
・法務省編(2009)「平成21年度版 犯罪白書」
・最高裁判所事務総局編(2000)「陪審・参審制度 フランス編」

【参考URL】
・「フランス司法権の特徴と重刑陪審裁判」中村義孝(閲覧日:2010年3月12日)
 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/05-23/nakamura.pdf
・47NEWS(閲覧日:2010年3月12日)
 http://www.47news.jp/feature/saibanin/47news/094741.html
・各国の陪審参審制度の比較(社団法人日本監査協会が実施)(閲覧日:2010年3月14日)
 http://www.iiajapan.com/system/forum/28_sanko2.pdf海外実情調査報告(閲覧日:2010年3月14日)
 http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/sonota/kaigai/pdfs/huransu.pdf
・フランスにおける参審制度(閲覧日:2010年3月26日)
 http://www.lalettremensuelle.fr/spip.php?article3158
・独立行政法人 労働政策研究・研修機関(閲覧日:2010年6月9日)
 http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2010_2/france_01.htm

 フランス編(上)(下)はこちらから

 

⇒フランス編(上)-参審制度導入の背景

⇒フランス編(下)-フランス参審制度の運用状況と考察



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