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新連載【シリーズ・海外の司法参加】第1部・韓国編がスタートしました!

2010年3月28日

裁判員ネットでは、諸外国の市民の司法参加について調査する活動を行っています。
日本の裁判員制度と、世界の国々の裁判制度を比較・検討しながら、 市民の司法参加について海外にも視野を広げることで、日本の裁判員制度についての議論をより深めることができるのではないでしょうか。
この連載では、韓国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリアの7カ国を取り上げ、それぞれの国につき3回程度に分けて定期的に連載をしていく予定です。各国の事情を知ることで日本の裁判員制度を考えるうえで参考になることが数多くあると思います。どうぞ最後までご覧いただければ幸いです。

 

【シリーズ・海外の司法参加】第1部:韓国編(上)-国民参与制度導入の背景と概要-

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「シリーズ・海外の司法参加」。その第1回はお隣の国、韓国を取り上げます。韓国では刑事裁判への市民参加が行われるようになったのは、日本の裁判員制度と同じように、つい最近のことです(2008年から試験的に導入)。
この市民参加の制度を韓国では「国民参与制度」と言いますが、その導入の背景や制度はどのようなものなのでしょうか?そして、実際の制度の運用状況や特徴、課題はどんなものなのでしょうか?
韓国も日本も制度はスタートしたばかりです。その意味でもリアルタイムに互いに比較することができる対象と言えます。そのような視点から今回のレポートをまとめてみました。

韓国編(上) 「国民参与制度」導入の背景と概要


まず最初に、韓国における司法への市民参加制度がどのような背景と経緯から導入されるようになったのでしょうか?そしてその制度はどのようなものなのでしょうか?日本と比較しながら概要を見てみたいと思います。

1.導入の背景

従来、韓国では、訴訟は不透明で評決は‘裏取引’の結果であるというように見られることさえ一部にはありました。裁判官と検察官、弁護士は、ほとんど公の場には現れず、協議は短時間、文書で解決させてしまうなどの慣行もあり、そのようなことに対する指摘の声もありました。(「ニューヨークタイムズ電子版」:Su Hyun Lee, ‘South Korea struggles to incorporate a young jury system’より。詳細URLは末尾に記載)

「国民参与制度」の導入は、このような実状に対して「国民のための司法」を目指す司法改革の一環として検討されました。この改革は、1960年代より推進されていましたが、90年代から加速化された司法改革の動きを受け、2003年に就任したノ・ムヒョン大統領が積極的に指揮した結果、「わかりやすい法令づくり(法令の全文ハングル化)」や「量刑基準の設置」、「ロースクールの設置」など様々な改正が実施され、一般市民が法に関わりやすい環境を整備しました。翌2004年には司法改革審議会より「刑事訴訟への市民参加」という意見書が提案されたのが国民参与制度の布石となりました。この司法改革審議会とは、情報化、産業化、国際化する社会状況に即した司法制度の改正を目的に設立され、そのメンバーは法律の専門家、政治家、立法府、メディア、労働組合、ビジネス部門、NGO団体など様々な分野から集められた21名によって構成された組織でした。つまり、「専門家」プラス「社会の構成員代表」が集結していたということが特徴と言えます。
このような流れをふまえ、2007年4月には国民参与裁判の導入のための法律が成立し、翌2008年1月には市民が刑事裁判に参加する「国民参与裁判」が、試験的に実施されるに至りました。

 国民参与裁判を取り入れる目的として挙げられているのは、主に以下の3点です。
  
1 国民の健全な社会常識を裁判に反映させることで、裁判の正当性に対する国民の信頼を高めること
2 司法権の濫用をけん制すること
3 審理の迅速化とわかり易い裁判を実現させることで調書裁判の形態から脱すること
※調書裁判とは:公判にて提出される証拠や供述よりも、捜査段階の取り調べの記録である供述調書(正確には「供述録取書」)を重視して、審理を進める裁判のことを言います。

2010年、法曹界、学会、市民団体の代表者によって構成される「国民司法参与委員会」によって、制度の検証や問題点の修正を予定しており、最終的・本格的な導入は2年度の2012年を予定しています。
日本の裁判員制度も2009年に施行され、2012年に制度の見直しを予定しているので、韓国はまさにリアルタイムに比較できる対象となるのではないでしょうか。
 

2.国民参与制度の概要-日本の裁判員制度との比較

それでは次に、日本の裁判員制度と韓国の国民参与員制度との差異はどのようなところなのかを見ていきましょう。
韓国の国民参与員制度と日本の裁判員制度との比較を下の表で示したいと思います。

韓国 【国民参与裁判】日本 【裁判員裁判】
対象事件・重大な刑事事件
・収賄罪
法定刑に死刑か無期懲役、無期禁固がある事件
法定刑の下限が1年以上の事件のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた
構成・裁判官 3名
・陪審員 5、7、9名(法定刑の軽重による)
・裁判官3名(又は1名)
・裁判員6名(又は4名)
任期事件ごと事件ごと
市民の選び方・20 歳以上。
・韓国国民から無作為選出
・20 歳以上。
・選挙人名簿から無作為選出
裁判(陪審)員の予備・予備的陪審員を数名設ける
※審理直前まで予備か否か不明
・補充裁判員を数名設ける
権限・裁判官から独立
・有罪・無罪の決定
・判決は陪審員の評決に影響されない
・裁判官と同等の権限
・有罪・無罪の決定
・量刑判断
評決方法・全員一致
(ただし、意見が割れた時は裁判官と協議の上、多数決で決定)
・多数決
(ただし、裁判官・裁判員各1名以上の賛成必要)
日当・陪審員 10万ウォン(約7400円)
・陪審員候補者 5万ウォン(約3700円)
・裁判員、補充裁判員:1万円以内
・裁判員候補者:8000円以内
審理日数・原則1日、あるいは2日
(3日以上のものは裁判所が除外する)
平均3日(全体の7割程度)
(ただし事件の内容によって延長される)
公判前整理手続原則公開原則非公開
被告人の選択被告が制度の適用を望んだ時のみ適用不可
上訴審での市民参加なしなし

表からもわかるようにこの制度の対象となる事件、裁判員(陪審員)の市民の選び方、任期については日本と韓国は、ほぼ同じであると言えます。
一方、異なる点としては、(1)参加する市民の権限と評決方法、(2)審理日数、(3)被告人の裁判の選択、(4)公判前整理手続についての項目が挙げられます。
以下では、日本との相違点について触れたいと思います。

(1)参加する市民の権限と評決方法
日本では裁判員裁判に参加する市民は、有罪・無罪の判断だけではなく、有罪ならばその刑期の長さなど「量刑判断」も課されています。そのため裁判官と同じ権限とされていますが、韓国では陪審員となる市民に課されている内容は「有罪か無罪か」の判断だけです。そして裁判官も、陪審員の下した判断(評決)には拘束されないので、陪審員は裁判官から独立した対場にあると考えられています。また評決の方法も、日本では「多数決」となっているのに対し、韓国では「全員一致」が原則となっています。

(2)審理日数
審理日数については、裁判員制度においては平均3日(全体の7割程度・事件の内容によって延長される)のに対して、韓国では原則1日か2日となっています。これは裁判に参加する市民への負担を軽減するための対策ですが、逆に「1日の審理が長くなってしまう」という問題点も生じています。このことについては、次回連載の「韓国編(中)・国民参与裁判の運用状況について」の中でも詳しくお伝えしたいと思います。

(3)被告人の裁判の選択
日本においては殺人、強盗傷害等の裁判員裁判の対象となる重大な事件の被告人は、すべて裁判員裁判を受けることになります。一方韓国では、職業裁判官による裁判を受けるか国民参与裁判を受けるかの選択を被告人はすることが許されています。このことに関しては、次回連載の「韓国編(中)・国民参与裁判の運用状況について」の中で詳しくお伝えしたいと思います。

(4)判前整理手続
韓国では、公判審理を迅速に進行させて陪審員の拘束時間を減らすのと同時に、「法律専門家ではない」陪審員が「証拠能力のない証拠を考慮することを防ぐ」ために、公判前整理手続きが義務的に行われています。そしてこの手続きは原則的に公開で行われます。
検察官と弁護人が必ず出席し、事件の争点を整理し証拠申請及び証拠決定を行い、具体的な集中審理のための計画を作ります。また、当事者の保有する証拠開示も行われます。公判前整理手続において申請されなかった証拠を後に申請する場合は、その申請によって証拠を著しく遅延させないかなどを考慮して申請の可否を判断しています。日本では、公判前整理手続の公開に関する規定がありませんが、慣例として「非公開」で行われています。

以上のように韓国と日本の相違点を見てきました。次回のこのコーナーでは、国民参与員制度の現在の運用状況について、ご報告したいと思います。(つづく) 

 (裁判員ネット:吹野加奈、竹越遥)

……………………………………………………………………… 
【参考文献】
□白井京、2009「【韓国】「わかりやすい法令」と「量刑基準」-裁判員制度の条件整備」『外国の立法』No.240-1(2009年7月:月刊版)、国立国会図書館・立法考査局
□李銀模、2008「韓国の国民参与制度の内容と問題点(2008年7月28日の講演録)」『特別行事報告書・刊行案内』、関西大学法学研究所
□山内雅哉、2009「韓国「国民参与裁判制度」の調査報告」『LIBRA』2009年3月号、東京弁護士会

【参考URL】
□韓国大法院ホームページ(閲覧日:2010年2月21日)
 ・英訳版トップページ 
  >http://eng.scourt.go.kr/eng/main/Main.work
 ・’Judicial Reform’  
 >http://eng.scourt.go.kr/eng/judiciary/judicial_reform.jsp
 ・’Overview of Legal Professional Training System in korea’
 >http://file.scourt.go.kr/AttachDownload?file=1214196709606_135149.pdf&path=001&downFile=Overview of Legal Professional Training System in Korea.pdf

□最高裁判所ホームページ(閲覧日:2010年3月27日)
 ・裁判員制度トップページ
 >http://www.saibanin.courts.go.jp/ 
 ・裁判員制度Q&A 
 >http://www.saibanin.courts.go.jp/qa/index.html

□ニューヨークタイムズ電子版(閲覧日:2010年2月21日)
 ・Su Hyun Lee, ‘South Korea struggles to incorporate a young jury system’
 >http://www.nytimes.com/2008/07/07/world/asia/07iht-jury.2.14299454.html 

□取調べの可視化を推進する会ホームページ(閲覧日:2010年3月26日)
 ・「調書裁判について」 
 >http://www.kashika-suishin.com/?page_id=4 



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