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【シリーズ・海外の司法参加】第1部:韓国編(中)-国民参与裁判制度の運用状況と特徴-

2010年4月5日

裁判員ネットでは、諸外国の市民の司法参加について調査する活動を行っています。
日本の裁判員制度と、世界の国々の裁判制度を比較・検討しながら、 市民の司法参加について海外にも視野を広げることで、日本の裁判員制度についての議論をより深めることができるのではないでしょうか。
この連載では、韓国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリアの7カ国を取り上げ、それぞれの国につき3回程度に分けて定期的に連載をしていく予定です。各国の事情を知ることで日本の裁判員制度を考えるうえで参考になることが数多くあると思います。どうぞ最後までご覧いただければ幸いです。

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韓国編(中)・国民参与裁判制度の運用状況と特徴

「シリーズ・海外の司法参加」。その第2回目は今回も前回に引き続き、韓国を取り上げます。前回は韓国の「国民参与裁判」の導入の経緯とおおまかな制度の仕組みを説明しつつ、日本との比較を行いました。韓国では刑事裁判への市民参加が行われるようになったのは、日本の裁判員制度と同じように、つい最近のことです(2008年1月から試験的に導入)。
今回は特に、実際の制度の運用状況や特徴などについて詳しく見ていきましょう。

1.件数、内容

前回でも触れた通り、韓国の国民参与裁判は殺人や強盗、強姦などの重大刑事事件や収賄罪を対象としています。そして被告人には、「陪審員による裁判」か「職業裁判官のみによる裁判(従来のように、市民は判決に関わらず、プロの裁判官だけで判決を決める裁判)」かのどちらの裁判を受けられるかという選択が許されています。2008年1月から10月31日までの期間、国民参与裁判の対象事件のうち被告人が国民参与裁判を選択した件数は、合計193件でした。(*1) これは対象事件総数に対してわずか約8%なので、ほとんどの被告人が陪審員による裁判を選択していないことがわかります。
ここで、この193件のケースを見てみると、国民参与裁判の判決で結審した事件が47 件、裁判所が「国民参与裁判に適当ではない」として「排除決定」した事件が47 件、被告人が申立を撤回した(国民参与裁判をとりやめることを申し出た)事件が75 件、未済事件が24 件でした。
このような被告人が国民参与裁判を選択する割合が低い状況はその後も続き、2008年12月末の段階までには対象事件のうち5.5%程度しか国民参与裁判は選択されず、実施されたのも、この1年間で60件のみで、翌2009年は1~5月で26件だけにとどまりました。これは当初の想定件数(1年あたり100~200件)をだいぶ下回っていると言えます。

次に事件の内容についてですが、少しさかのぼりますが2008年6月30日における大法院の調査によると、当時までの審理対象となった計23件の裁判のうち、事件内容は殺人事件が8件(約35%)、強盗事件が7件(約30%)でした。さらに被告人の罪状に対する認否に関しては、約65%(15件)が犯行を認めていた事件である一方で、約35%(8件)が犯行を認めていない事件でした。 (*2)  

2.争点と判決結果

韓国の国民参与裁判では陪審員は「有罪か無罪か」の判断を行います。日本の裁判員のように被告人にどれくらいの刑を与えるべきかという「量刑判断」は行いません。2008年10月31日までの193件の裁判においての争点は、「正当防衛が成立するか否か」、「過剰防衛か否か」、「精神障害やアルコールの大量摂取による心神喪失、心神耗弱」、「共犯者や目撃者の証言の信ぴょう性」、日本でも話題になっている「DNA鑑定結果の証拠力」などをあげることができます。(*3)
韓国の国民参与裁判では、陪審員が評議で決定した内容を「評決」と呼びます。しかしあくまでも「判決」を決めるのは裁判官なのです。つまり陪審員の出した「評決」を参考にして裁判官は「判決」を決めるのですが、これは日本においては裁判員と裁判官が一緒に評議した内容が「判決」となる裁判員制度とは大きな違いと言えます。(⇒「韓国編(上)国民参与制度導入の背景と概要-」をご参照ください

韓国においては、裁判官は陪審員の評議の結果を参考にして判決を出す以上、裁判官の判断と陪審員の判断に違いが出てくる可能性があります。2008年1月から6月末までの23件の国民参与裁判において、韓国の陪審員制度では、「評決」と「判決」が異なる結果となったのは2件ありました。どちらも陪審員は「無罪」を評決結果として提案しましたが、職業裁判官によって、「有罪」の判決が下された事件でした。一方、残りの21件は、評決と判決が一致した内容でした。 (*4)

3.審理日数

さて韓国では、裁判が長期化することで、陪審員が疲れてきってしまうことを防ぐために、「3日以上要する事件」は裁判所が「国民参与裁判に適さない」として排除しています。2008年10月31日の時点で判決まで至った47 件の裁判のうち、1日で審理・判決がなされたケースが44件(90%以上)。2日かかった事件が3 件でした。3 日以上かかる事件はなく、その理由としては前述のように、「陪審員への負担」を考慮しているからです。つまり、3日以上かかると思われる事件は、裁判所により排除決定がされているということです。しかし1日で審理を行って判決まで下す事件の場合、判決言渡しが午後7 時~ 9 時頃になされることも少なくないようで、午後11時過ぎになったケースもあったそうです。(*5)  一方の日本の裁判員制度では、裁判員の参加日数が平均3日間(全体の約7割)となっておりますが、10日以上要したケースもありました。

 4.審理における工夫

公判審理(冒頭陳述や証人尋問など法廷内での実際の動き)においては、日本と同様に写真・ビデオ、プレゼンテーションソフトなどが積極的に利用され、陪審員の視覚に訴える証拠調べが実施されているとの報告がされています。なかには、弁護側のプレゼンテーションのほうが整理されて分かりやすいとの声もあるほどです。(*6)
日本の裁判員は法廷で直接証人や被告人に質問することができますが、韓国の陪審員は直接質問をすることはできません。質問事項を書いた紙を適宜裁判官に渡し、代わりに質問してもらうことになっています。したがって陪審員は直接法廷で質問をすることは許可されていません。

5.出頭率 

ここでいう出頭率とは、陪審員候補者に選出された旨の手紙を受け取った者が、実際に手紙に書かれていた裁判所に出頭した割合をいいます。2008年6月時点で一つの事件に平均して143.1人の候補者が召喚され、43.4人が出頭しており、実質的な出頭率は平均59.0%でした。(*7)  大法院の2008年6月の報告によると、男性の出頭率が女性に比べて低いとの報告がありますが、原因は不明です。なお、選ばれた陪審員は、比較的に様々な年齢層、職業層に及んでいました。(*8) 

6.予備的陪審員について

予備的陪審員とは、陪審員に選ばれた者が、万が一参加できなかったときのための予備の陪審員です。日本の裁判員制度にも、予備裁判員が当てられていますが、韓国のそれと決定的に違うのは、「自分が予備的陪審員だ」と知らされるのが評議の直前だということです。つまり、裁判の審理を見ているときには自分が陪審員なのか、予備陪審員なのかということがまったくわかりません。これは、裁判に臨む態度をある程度一定に保つためと言えるでしょう。
また、これは前回指摘したことですが、韓国の場合、その裁判を担当する陪審員の数は、事件よって異なります(法定刑の軽重により5、7、9人)。そして予備的陪審員もそれは同様なのですが、2008年6月時点で、976人の候補者中、208人(21.3%)が予備的陪審員に選ばれ、一つの事件に、予備的陪審員は平均9.1人が選ばれました。予備的陪審員の割合も、男性が女性に比べて低い傾向にあります。30代の割合が多いが、比較的様々な年齢層、また職業層についても主にビジネスマン、自営業者、主婦をはじめ様々な層に及んでいました 。(*9)

7.陪審員に関するアンケート調査結果

韓国の大法院は陪審員を経験した人に対してアンケート調査をおこなっています。その結果、79.8%の陪審員が国民参与裁判に満足し、84.0%の陪審員が裁判のおおよそ、もしくは全てを理解していると答えています。陪審員を経験した人は国民参与制度におおむね好印象を抱いているようです。またこれは97.2%の陪審員が陪審の義務を肯定的に受け止めており、裁判や審議中に、ほとんどの陪審員が積極的に質問や意見を述べているということからも伺えます。一方、主な問題点としては、「長時間に及ぶ裁判」(46%)、「法律用語の難しさ」(24%)などが挙げられます。また、審理が丸一日に及ぶことなどに関してはアンケートに見られるように不満の声も上がっているようです。 (*10)

以上のように、今回は韓国における国民参与裁判制度の現在の運用状況を報告いたしました。次回の韓国編(下)では、改めて、国民陪審員制度と日本の裁判員制度を比較して、それらの特徴をふまえながら、どのような論点を見いだせるか探っていきたいと思います。次回もご期待下さい。

(裁判員ネット:吹野加奈・竹越遥)

 <注>

(*1)山内雅哉(2009)「韓国「国民参与裁判制度」の調査報告」『LIBRA』2009年3月号、東京弁護士会、p34
(*2) The Supreme Court of Korea(2008)‘The Supreme Court of Korea Press Release 2008.7.14’(韓国・大法院プレスリリース2008年7月14日)”National Participatory Trials Held Consistently With Active Jury Participation.”p1
(*3)ibid.p1
(*4)ibid.p1
(*5)山内雅哉(2009)
(*6)同上。p35
(*7)The Supreme Court of Korea(2008)p2
(*8)ibid.p2 なお次のような記述があります。”Evenly spread throughout various occupations, with concertrations of businessmen, self-employment, and housewives”
(*9)ibid.p2
(*10)ibid.p2

【参考文献】
□今井輝幸、2009「韓国における国民参与裁判の現状」 『刑事法ジャーナル』第15号
□神谷説子・澤康臣、2009「世界の裁判員-14ヶ国イラスト法廷ガイド」日本評論社
□白井京、2009「【韓国】「わかりやすい法令」と「量刑基準」-裁判員制度の条件整備」『外国の立法』No.240-1(2009年7月:月刊版)、国立国会図書館・立法考査局
□山内雅哉、2009「韓国「国民参与裁判制度」の調査報告」『LIBRA』2009年3月号、東京弁護士会 
□李銀模、2008「韓国の国民参与制度の内容と問題点(2008年7月28日の講演録)」『特別行事報告書・刊行案内』、関西大学法学研究所
□The Supreme Court of Korea,2008‘The Supreme Court of Korea Press Release 2008.7.14’(韓国・大法院プレスリリース2008年7月14日)”National Participatory Trials Held Consistently With Active Jury Participation.”

【参考URL】

□韓国・大法院ホームページ(閲覧日:2010年2月21日)
http://www.scourt.go.kr/main/Main.work
□韓国法務省ホームページ(閲覧日:2010年3月27日)
http://www.moj.go.kr/
□神戸新聞ホームページ(閲覧日:2010年3月27日)
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0002019741.shtml
□共同通信・裁判員制度特集ページ(閲覧日:2010年2月21日)
http://www.47news.jp/feature/saibanin/47news/



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