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【シリーズ・海外の司法参加】第3部:ドイツ編(上)―参審制度の導入の背景と概要

2010年8月25日

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裁判員ネットでは、諸外国の市民の司法参加について調査する活動を行っています。日本の裁判員制度と世界の国々の裁判制度を比較・検討しながら、 市民の司法参加について海外にも視野を広げることで、日本の裁判員制度についての議論をより深めることができるのではないでしょうか。
この連載では、韓国、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどを取り上げ、それぞれの国につき3回程度に分けて定期的に連載をしております。各国の事情を知ることで日本の裁判員制度を考えるうえで参考になることが数多くあると思います。どうぞ最後までご覧いただければ幸いです。

 

ドイツ編(上)~参審制度の導入の背景と制度の概観

ドイツでの市民の司法参加には200年もの歴史があります。現在、ドイツでは刑事事件だけではなくその他多くの裁判において市民が参加する仕組みがあります。日本での市民の司法参加は「裁判員制度」という形で実現したのに対して、ドイツの場合は「陪審制度」を経て、現在は裁判官と市民から選ばれた参審員と呼ばれる人々で事件の判決を下す「参審制度」が採られています。

1.導入の背景

ドイツの参審制の導入の背景は、フランスの影響があります。1789年にフランス革命が起こりますが、この過程で司法制度への改革も進行します。この頃、フランスでは市民の中から選ばれた者が裁判を行うべきだという声が強まり、その結果革命後のフランス憲法に取り入れられ、フランスでは陪審制が導入されました。この一連の動きは、隣国ドイツに大きな影響を与え、ドイツにも陪審制の導入についての議論がなされ始めました。
ドイツにおける裁判への市民の参加が本格的に始まったのは、1848年にヨーロッパ各地で起こった革命以降です。この時導入された陪審制はフランスの要素を多く取り入れたものでしたが、陪審員の権限も限定的であり、対象となる事件も比較的重い犯罪に関するものだけで、全体としては少ない割合でした。これに対し、市民が関与する機会を増やす策として、いくつかの州では職業裁判官と市民が共同して判決を行う「参審制度」が導入されました。この時の参審裁判は、懲役6か月以下の軽い刑が対象となりました。
1871年にドイツ帝国が成立した際、陪審裁判所を存続させるか、それとも陪審裁判所を廃止してすべての刑事事件に参審裁判所制度を導入するかの議論がなされました。その結果この妥協策として、刑事事件の構成として、(1)軽微な事件については参審裁判、(2)中程度の事件は職業裁判官のみの裁判、(3)重大な事件は陪審裁判で判決を下すという妥協策がとられました。これは、1879年からドイツ全国で実施され、それまで各州によって差があった司法制度が統一されることになったのです。
しかし、この3つの裁判制度を導入したものの、結果的に広範囲の裁判を裁判官だけで行い、市民の参加が排除されているとの問題が起こり、改正の要求がありました。こうした批判を受け、1924年エミンガー司法大臣による改革が行われ、陪審裁判所という名称は残ったものの実質的に、ドイツにおける陪審員制は廃止され、参審制に集約されました。しかし、ナチス政権により市民の司法参加は崩壊しますが、戦後参審制は復活し、1974年の刑事手続の改正により、ドイツの参審制度が完成しました。
近年では1993年の裁判所構成法の改正により、裁判官単独で審理及び、判決を担当する刑事単独裁判所の管轄が軽罪1年から2年に拡張されたことにより、参審裁判の対象事件が縮小されました。

このように、ドイツの市民の司法参加は長い歴史を持ち、幾度となく改正を加えながら現在の参審制度となりました。

2.ドイツの参審制の概観

では、ドイツと日本の刑事裁判の制度を比較する表をご覧下さい。(なお、ドイツは、連邦制国家であるため州ごとに異なる部分があります。ここでは、多くの州でとられているものをご紹介します)

  

ドイツ【参審制度】日本【裁判員制度】
対象事件
・2年以上4年以下の刑が予想される事件
*その他に、労働、行政、財政、少年事件なども対象になっている。
・裁判員法2条に定めがある犯罪に係る事件
1.死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
2.法律上合議体で取り扱わなければならない事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの
構成・裁判官3名(又は1名)
・参審員2名
(法定刑の軽重による)
・裁判官3名(又は1名)
・裁判員6名(又は4名)
任期・5年間(月に1件程度)・事件ごと
選任方法・25歳以上
・政党、団体等からの推薦
・20歳以上
・選挙人名簿から無作為抽出
予備人員・審理が長期化する場合数名
(裁判官の判断に委ねられる)
・補充裁判員を数名設ける
権限・裁判官と同等
・有罪・無罪の決定
・量刑判断
・裁判官と同等
・有罪・無罪の決定
・量刑判断
選任前の対応・1時間程度の講義
・刑務所見学
・質問票記入後、裁判長等と面談
評決方法・有罪には3分の2の多数が必要・多数決(ただし、裁判官・裁判員各1名以上の賛成必要)
日当・職務によって生じた損失分・裁判員、補充裁判員:1万円以内
・裁判員候補者:8000円以内
審理日数・原則1日か2日・平均3日(全体の7割程度)
(ただし、事件の内容によって延長される)
公判前整理手続・非公開・非公開
被告人の選択・不可・不可
上訴審の市民参加・あり・なし

表からわかるように、ドイツの参審制度と日本の裁判員制度では評決方法が多数決である点と、被告人が「市民参加の裁判」か「職業裁判官だけの裁判」かを選択できない、という2つの点で共通していますが、その一方でドイツの参審制と異なっている点も数多くあり、その部分から日本の裁判員制度を考える上で参考になることがあると思います。ではこれから、特徴的な項目について簡単に説明したいと思います。

(1)対象事件
ドイツの刑事事件における参審裁判の対象事件は、2年を下回る軽罪と国家安全に関わる罪以外で、日本に比べて広範囲にわたり市民参加の機会が与えられています。ドイツの裁判では、職業裁判官以外の者が裁判に参加する機会は多くあり、日本の市民参加は一部の刑事裁判に限られているのと比べるとかなり異なっていると言えます。またドイツの場合、労働、行政、財政、少年事件などの裁判にも市民から選ばれた者が参加しています。

(2)参審員の任期
日本の裁判員は、1件の事件裁判を担当し、その事件の判決を下すまでが任期となっています。しかし、ドイツでは参審員として5年間という任期があり、その期間を通して任務を行います。毎年度の初めにくじ引きを行い、年間10~12期日を目安に、どの参審員がどの開廷日に出廷するかが決められます。参審員となっても、市民としての本職があるので担当する裁判があるときは、仕事を休んで裁判所に通うことになります。5年という任期は2009年からで、それ以前の任期は4年間でした。この改正は参審員の選任の経費を削減するためのものでした。

(3)市民の選び方
ドイツでは選出方法も州ごとに異なりますが、ここでは多くの州で採用されている選出方法について触れます。参審員の選任は、まず地方自治体(市町村レベル)が候補者名簿を作成するところから始まります。ドイツの場合、候補者は25歳以上です。候補者名簿の作成方法は、各自治体に任されていますが、あらゆる階層から参審員が選任されるよう配慮して、選任予定の参審員の定員よりも多い数の候補者名簿を作成することや、地域の団体や政党から推薦された人を掲載する方式などが採られています。
次に、この自治体が作成した候補名簿に基づいて、区裁判所内に設置された「選任委員会」の委員による投票によって参審員は選ばれます。この「選任委員会」とは裁判官と自治体の行政官、そして一般市民の代表者(自治体において選任されますが、特別な資格等は必要ありません)から構成されています。この「選任委員会」の3分の2以上の賛成によって参審員は選出されるのです。

(4)日当
ドイツでは、参審員に選ばれることを名誉職としてみなされているため俸給は支払われません。しかし、参審員を担当したことによって生じた損失分は法律によって補償されています。補償内容は、①時間的拘束に対する補償、②旅費、③経費です。①の時間的拘束に対する補償は、参審員として裁判所に出頭した人全員に支払われるもので、1時間日本円で約580円。それに加えて、裁判所に参審員として留まっていた時間に得られたであろう所得に対して最高額で1時間日本円で約2000円まで補償されます。時間的拘束に対する補償は、1日10時間が限度とされています。②の旅費に関しては、もっとも安い交通費の実費として1kmあたり日本円で約350円を200㎞まで、さらに自動車による交通費として駐車料金が支給されます。③の経費は、裁判所に出頭する場合、自宅や職場にいるよりも食事等に費用がかかる点から補填する目的で、1日あたり日本円で約400円支給されます (*1)。

(5)審理日程
ドイツの刑事裁判は、多くの場合は1日か2日の期日で審理を終えます。ですから証拠調べ、論告、弁論、被告人の最終陳述、評議、判決宣告が即日中に行われることがあります。ただし、審理に時間がかかると予想される複雑な重大事件や財政経済事件の場合、論告、弁論のための期日を設けることが出来ます。この場合、裁判長の判断により補充参審員を招集します。

(6)上訴審の市民参加
ドイツでは、区裁判所に限り参審裁判の判決に対して控訴を認められています。この際、第1審と同じ裁判官2名と参審員2名で審理される場合もあります。ドイツでは、控訴審に関する議論が繰り返してきましたが、民主主義の理念から参審員の参加している以上、控訴審でも同様に参審裁判を行うことは、当然のことと捉えられています。

(7)裁判官の「職権主義」
ドイツの刑事裁判は「職権主義」つまり、裁判官が審理の主役となり真実発見のためにあれこれ調べ、場を仕切るスタイルをとっています。裁判官は、例えば証人喚問のときなど、質問は裁判官が大部分を行い、検察官や弁護人は裁判官の質問が終わった後に補足的な質問をする形がとられています。

(8)参審員の質問権
裁判官同様、参審員にも証人尋問の際に、証人に対して質問する権利があります。しかし、質問は裁判官の許可を得なければ行えず、しかもその質問が不適切であると裁判官に判断された場合、裁判官によってその質問自体が取り消されてしまうこともあります。

(9)参審員に任命された場合の義務
ドイツでは参審員の場合、それに選ばれたからといって、特別な義務があるわけではありません。検察官、裁判長による1時間程度の講義やフランスの参審員制でも採用されている刑務所見学も行われますが、参加はあくまで任意。また、「参審員のための手引き」なる冊子が配布されるのですが、読むかどうかは参審員次第となっています。これは、「参審員は一般市民の健全な常識によって判断すべきだ」という考えに立脚した配慮です。

(10)法廷の配置
 ドイツでは1960年代後半に「法廷が権威的すぎる」という批判が起こったため(68年運動)、裁判官の座る位置を低くし、法廷に大きな窓を設けるなど工夫が施されています。また、法廷の雰囲気も日本のそれより温みを持たせて、権威的にならないような配慮がされています。

<注>
 (*1) 例)裁判所から近郊の地域から、出頭した参審員が所得換算で1時間2000円の人の場合、7時間裁判のために拘束されたケースでは約2万3000円程度の日当を受け取ることができます。

 

今回はドイツ・参審員制度の導入の背景と概観を報告いたしました。次回の連載では、近年の参審員裁判の実施件数などの運用状況についてご報告させていただく予定です。どうぞご期待くださいませ!

(裁判員ネット:田中浩太、服巻美香)

 
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【参考文献】
・丸田隆(2004)「裁判員制度」平凡社
・東京三弁護士会陪審制委員会(1996)『フランスの陪審制とドイツの参審制―市民が参加する刑事裁判』
・最高裁判所事務総局刑事局監修(1999)『陪審・参審制度(ドイツ)』司法協会

【参考URL】
・「司法スケッチ~歴史ある参審制~ドイツ」(閲覧日:2010年3月28日)
http://www.courts.go.jp/about/sihonomado/pdf/68_sihouSketch.pdf
・「司法制度改革審議会 海外実状調査結果(平成12年4月~5月)ドイツ」(閲覧日:2010年3月28日)
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/sonota/kaigai/pdfs/doitu.pdf
・各国の陪審・参審制度の比較(閲覧日:2010年3月28日)
http://www.iiajapan.com/system/forum/28_sanko2.pdf
・ドイツ(州レベル)における裁判官の人事制度(閲覧日:2010年3月28日)
http://www.courts.go.jp/saikosai/about/iinkai/saiban_kenkyu/jinzai_siryo3/pdf/siryo6.pdf



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