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評決での多数決と全員一致の違いは何を意味するのか

2009年5月31日

裁判員制度の評決では、多数決で有罪か無罪かが決まります。

有罪か無罪かの評決は、原則として過半数で決まります(有罪の場合は裁判官と裁判員の両方が必要です)。

裁判員裁判は9人(裁判員6人と裁判官3人)で行いますから、裁判官1人以上を含む5人が有罪とすれば、被告人は有罪になります。

たとえば、裁判官3人と裁判員2人が有罪と評決すれば、被告人は有罪となるのです。

つまり、裁判員6人のうち4人が無罪と考えても、被告人が有罪となる仕組みなのです。

評決は、裁判員裁判のもっとも重要な場面です。この仕組みの意味は、どういうものなのでしょうか?

もし裁判員制度が、市民の意見を直接反映させる制度であれば、この制度設計は明らかにおかしいものです。

裁判員6人のうち4人が無罪だと考えても、被告人は有罪となるのですから、市民の意見を反映しているとはいえません。

一方、アメリカの陪審制度では、有罪か無罪の評決の場合には、全員一致を原則としています。

アメリカの陪審制度では、有罪か無罪かを決める評議と評決には裁判官は加わりません。市民から選ばれた陪審員だけで行うのです。

つまり、アメリカの陪審員は、たった一人でも有罪の判決に対する「拒否権」を持っているといえるのです。

アメリカの陪審制度は、そもそも権力機関が市民に対して刑罰を科すためには、同胞である市民の許可が必要という思想と歴史から生まれています。だからこそ、陪審員として選ばれた人の全員一致が必要という制度をとっているのです。

コリンP.A.ジョーンズ氏は、「全員一致の要件は厳し過ぎると思われるかもしれないが、現代社会における憲法の目的の一つが、市民の多数から、少数の人権を保護することであることからすれば、たった一人の陪審員でも被告人を『守れる』ことはおかしなことではない。」と述べています(『アメリカ人弁護士が見た裁判員制度』平凡社新書113頁)。

もっとも無罪の評決でも全員一致が必要ですから、どうしても全員一致の評決ができない場合には、陪審が決裂して、新しい陪審を選び直すことになります。これで検察があきらめて起訴を取り下げることもあるそうです(同書113頁参照)。

どちらの制度が優れているかということは、単純に決めることはできません。

しかし、評決の仕組みが多数決かそれとも全員一致かということには、実は大きな意味の違いがあるのです。

裁判員制度の見直しの際に議論すべき点で、制度の存在意義にかかわる深い論点だと思うのです。(大城)



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