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歳 月

2009年5月28日

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皆さんは江藤新平という男をご存じだろうか。

日本史が好きな人、もしくは日本法史に詳しい人なら言わずと知れた、初代司法卿である。明治初期、諸外国から野蛮国として蔑まれていた日本をいち早く「法治国家」として確立しようと尽力したのが彼であり、その姿を描いたのが本書「歳月」 である。

肥前佐賀出身の彼は、司馬遼太郎の「翔ぶが如く」をはじめ、大久保利通の政敵としてよく描かれることが多いが、彼自身を主人公とした小説は数少ない。日本史の教科書でも、不平士族の反発運動の先駆けとして「佐賀の乱」を起こしたことが、せいぜい片隅に出てくるのみで、それゆえ、彼が近代国家日本の創成期に法整備を一手に手掛けたという業績は一般にはあまり知られていないのが実状だ。

外国の法律を、超人並のスピードで翻訳し、日本の近代法律を創りあげようとした彼の執念。そして、その知られざる実績を余すことなく伝える本書は、近代司法を知る上でも大変貴重である。

中でも面白いのは、「国を創る」という一点においての人々の気迫のぶつかり合いである。 彼は斬首という悲劇で幕を閉じるが、そこまで追い込んだのは、誰あろう、政敵である大久保であった。その大久保自身も、また、紀尾井坂で不平士族に暗殺されるという運命に見舞われる。政敵ではあったが、この2人、実は共通点が非常に多い。

個人としては無私だが、政治家としては徹底的な権力志向。まるで芸術家が創作活動に打つ込むかのように「国家」という作品創りに没頭した。職人気質という言葉がこの2人にはピッタリくる。

歴史小説では、坂本竜馬や高杉晋作などの颯爽とした人物が取り上げられやすいが、しかし、幕藩体制を壊した後、新しい国家を創設するという、まさしく根気の要る作業で、本当の意味での「明治維新」を完成させたのは、あまり陽が当たらず、人気もない彼らのような「職人」政治家だった。本書は、そのことを如実に示している。

歴史に「もし」は存在しないが、彼らがいなかったら、きっと日本の歴史も、そして日本法史も少し違ったものになっていただろう。

 世界でも有数の「法治国家」となった日本。あの時代、彼らはどんな理想を抱き、法律、そして国家を創っていったのか。日本の近代司法の誕生の裏側にある、人間模様を知ることも、私たちが裁判員制度に参加する上で、少し参考になるかもしれない。

評:三好康志(裁判員ネット・スタッフ)



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