精神障害者をどう裁くか
2009年5月8日
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最近、新聞などの事件報道の記事において、『責任能力』という言葉をみかけることが多くなった。殺人などの重大事件に関しても、加害者が『心神喪失』と認定され、刑事的な処罰を受けないことがしばしば報道される。そもそも、加害者が精神障害者であった場合、どうして刑罰が減免されるのか。多くの国民は疑問を感じていると思う。(本書3頁より)
裁判員制度では、専門家の「鑑定」を参考にしながら裁判員が「責任能力」を判断することになります。責任能力の判断をすることは、裁判員にとって荷が重いだろうというのが本書の著者の意見です。その理由として、裁判員は、精神障害について日常的に接する機会がないこと、裁判での審理時間が短いことをあげています。
著者は、精神科医で、うつ病の薬物療法、統合失調症の認知機能障害、精神疾患と犯罪などを主な研究分野にしている人です。本書では、重大事件で責任能力がない場合に適用される「医療観察法」など専門家でも賛否が分かれる問題にも率直に著者の意見が記されています。
この本の大きな特徴の一つは、どうして精神障害者が刑罰を受けないのかについて、歴史的に考察している点です。近代刑法よりもはるかに前の古代ギリシア・ローマ時代にも精神障害者に対する刑の免除があったそうです。また、日本においても江戸時代など同様の事例を紹介しています。刑法39条にあらわれる近代刑法の「責任能力」という理論は、実は歴史的社会的な事実を理論的に後追いしたものだという指摘は大変興味深いです。
評:大城 聡(弁護士/裁判員ネット・代表理事)