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犯罪からの社会復帰とソーシャル・インクルージョン

2009年6月3日

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犯罪はなぜ生まれてしまうのだろうか。どうすれば犯罪は減るのだろうか。

犯罪のない社会、皆が安心して生活を送ることのできる社会の実現は、多くの人が願っていることでしょう。
しかし、現実としては、犯罪は凶悪化し、貧富の差の拡大、就労の不安定化、若者のニート問題、福祉国家が制度化してきた社会保障の綻び、社会や集団へのコミットメントの弱化、危機意識や不安感から起こる精神的な問題の増加など、我々を取り巻く社会はいっそう不安定化していくかのように見えます。

これまで犯罪行為は、犯罪者の思考・行動特性にその原因が内在するように捉えられがちでした。多くの人にとっての「犯罪者」像は、「凶悪で、危険な人」であり、彼らは塀の向こうに隔離し、出所後も関わり合いを持ちたくない存在です。犯罪者は「社会的に排除」され、「再統合」を許されない存在であったともいえます。

しかし、1990年代からイギリスをはじめとしたEU諸国では、このような犯罪者を含む弱者に対する「社会的排除」の視点を捉えなおす動きが起こりました。これが、本書が焦点としている「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という考え方です。犯罪者の社会的包摂とは、犯罪者を社会の一員とみなすことによる、社会の一員としてのアイデンティティの回復を支援することです。

本書は、犯罪社会学などを研究している大学教授や、裁判所、刑務所、少年院、ほぼ観察所に勤める実務家の方々が筆を執り、さまざまな角度から犯罪者の社会的包括の可能性について論じています。
第二章「刑事司法と社会福祉」で、元衆議議員の山本譲 司氏は、受刑者の6割が障害者であるという刑務所が直面している問題を提示し、現在自身で取り組んでいる出所者支援活動の様子をつづっています。
第七章「刑事政策における社会的包摂の意義と課題」では、龍谷大学大学院法務研究科の教授を勤める石塚伸一氏が、2005年以降急増している死刑判決の現状を示し、刑事裁判は「仇討ち」の様相を呈していると指摘しています。一方で、地方政府や民間で起こり始めている小さな変化として、北海道雨竜郡沼田町で行われている少年院仮退院者の就農訓練の取り組みや、薬物依存者回復のための支援団体「ダルク(DARC)」、「アパリ(APARI)」の活動を紹介しています。
終章「犯罪者の社会的包摂」では、津富宏氏と尾山滋氏が、犯罪者であるというアイデンティティは、他者によるラベリングによって形成されるとして、犯した罪に対しては非難するが、当人に対して「本当は良い人」というラベルの貼り直しを行うべきと主張しています。

「犯罪者」とは、本当に「凶悪で危険な」人々なのでしょうか。
「排除」することは、いったい問題の解決につながるのでしょうか。

社会が抱える課題や矛盾を理解し、犯罪者の社会復帰のための重要な視点を提起しています。

                                                           評:森下佳織(裁判員ネット・スタッフ)



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