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裁判員経験者のアンケート結果から見えたこと

2009年11月20日

裁判員制度がスタートしてまもなく半年が経とうとしています。
先日最高裁判所は、8月から9月末までに判決が言い渡された、14件の裁判員裁判で、裁判員を経験した79人の方へのアンケート結果を公表しました。

それによりますと、裁判に参加した感想については、97.5%の方が参加を「非常によい経験」または「よい経験」と回答しているそうです。一方、裁判をやる前については56.9%の方が「やりたくなかった」と答えていることから、多くの方が参加したことを前向きに捉えている傾向にあるようです。

これについて、最高裁は「充実感を持って従事してもらっている」と分析しています。先日の報道でも、ここの部分が大きく取り上げられていました。

 しかし一方で、裁判官と一緒に判決を考える「評議」の場面では少し評価が異なるようです。この評議については、「十分議論できた」が78.5%に対し、7.6%の方が「議論が不十分」だと答えています。裁判員の方からは「時間が足りない」「最後の方がバタバタしていた」との声もあるそうです。

私自身も「模擬評議」を経験したことがありますが、確かに結論を出すのが難しい事件の場合、様々な証拠、いろんな見解や視点、考慮すべき事情というものが複雑にからみ、なかなか簡単に結論が出せない・・・ということがありました。そこから考えると、難しい事件であればあるほど「時間が足りない」「最後にバタバタする」という事態が発生するのは、容易に想像ができます。

これまでの裁判員裁判は被告人が概ね事実を認めているような、争う点の少ない裁判がメインであり、裁判所としては「判決の出しやすいものだった」という指摘もあります。

しかしこれからは、被告人が「自分はやっていない」と主張している事件(否認事件)や、刑の判断で「死刑かどうか」といったことを争うような事件、精神鑑定など難しい証拠をどう判断するのかといった事件が多くなるものと思われます。そう考えた時、果たして裁判の時間は十分と言えるのか、という問題はまだまだ残されていると言うべきでしょう。

さらに、NHKが行ったアンケート調査(44人に対して無記名)によりますと、裁判員を経験された71%の方が「心理的負担・ストレス」を感じたと回答しているそうです。

これも、実際に傍聴するとわかると思いますが、法廷には常にピンと張り詰めた緊張感が漂います。それはもちろん、「人を裁く」という極めて重い場面であるからこそ出てくる空気です。しかし、市民としては、法廷という「非日常的」で「特殊」な場所に置かれるわけですから、「心理的負担・ストレス」を感じるのは当然の事とも言えます。また、実際に被告人や被害者などを目の前にして、その人たちの運命を決めるわけですから、そのプレッシャーはなおのことです。

その状況下で、もし先に記した「難しい判断」を迫られるような事件だった場合、どうなるのでしょうか・・・。
心理的に負担を感じる中で、十分に議論ができないまま「有罪」や「死刑」という決断をしなくてはならない、ということになるのでしょうか?そこに「冤罪」や「誤判」のリスクはないのでしょうか?

そういう事態はあまり想像したくありませんが、自分が裁判員になった時にも起こりえる話だと思います。

年明け以降から、死刑か否かを迫るような難しい裁判が多くなる、とのことです。そう考えた時、「裁判員は充実感を持って従事してもらっている」と言えるのがどこまで続くかは、今後の裁判員制度のあり方や裁判運営のあり方にかかっているのだと思います。

(裁判員ネットスタッフ:坂上暢幸)



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