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[コンテンツ追加]市民からの提言~新型コロナウイルス感染拡大に対応する裁判員制度のために

2020年5月10日

裁判員ネットは2020年5月10日裁判員制度改善をめざし、「裁判員制度・市民からの提言~新型コロナウイルス感染拡大に対応する裁判員制度のために」とするを提言を発表しました。

はじめに、新型コロナウイルスでお亡くなりになられた方に哀悼の意を表するとともに、ご遺族の方には心よりお悔やみを申し上げます。また感染された皆さまの一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げます。そして医療に従事されている方や、小売や物流、インフラ等社会生活の維持のために日々尽力されている全ての皆さまに深く敬意を表します。

市民からの提言

新型コロナウイルス感染拡大に対応する裁判員制度のために~

私たちは、市民が主体的に裁判員制度に参加するため、裁判員制度に関して「市民からの提言」を続けています。裁判員法の再度の見直しに向けて2018年、2019年には制度全般についての提言を行ってきました。昨年、法務省の「裁判員制度の施行状況等に関する検討会」の第8回会合に出席し、「市民からの提言」に基づき、裁判員候補者の公表禁止規定の見直し及び守秘義務の緩和などの具体的な提案を行う機会も得ました。現在、裁判員法の再度の見直しに関する検討は継続中ですので、裁判員経験者をはじめとする市民の声が制度に反映されるように引き続き努力していたいと考えています。

本年は、裁判員制度開始11年を迎えるにあたって、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって裁判員制度が実質的に停止している状況を受けて、次の提言を行います。

【提言:新型コロナウイルス感染拡大に対応する裁判員制度のために

(1)市民に対する積極的な情報公開を行うこと

(2) 「裁判員裁判の再開に関するガイドライン」をつくること


1 新型コロナウイルス感染拡大と裁判員裁判の延期

新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、多くの裁判員裁判の期日が延期されています。名古屋地方裁判所では、裁判員3名の辞退を認め、34日の判決期日が取消されました。新型コロナウイルスの社会的影響を考慮して辞退の申立てを認めたとされています。また、3月の裁判員裁判の期日延期について、東京地方裁判所の広報担当者は、「裁判員を選ぶ選任手続きには何十人もの人に義務的に来てもらうことになる。感染拡大を防ぐ観点から取り消しを判断した」と説明したと報じられています36日までに全国で57件の裁判員裁判が延期されたとされます

政府の緊急事態宣言後は、裁判員裁判の延期がさらに進み、東京地方裁判所等のホームページにもその旨が掲載されています

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、裁判員制度は実質的に停止していると言えます。

2 裁判員裁判の延期に伴う課題

(1)被告人の不利益-迅速な裁判を受ける権利と身柄拘束の長期化

裁判員裁判の対象は、重大な刑事事件です。そのため、裁判員裁判が延期されると、重大な刑事事件の被告人が裁判を受けることができなくなります。憲法371項では「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」として、被告人の迅速な裁判を受ける権利を保障しています。安易に裁判員裁判を延期することになれば、憲法で保障されている被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害するおそれがあります。

また、裁判員裁判が延期されることで、勾留されている被告人については身柄拘束が長期化されるという懸念もあります。

感染拡大防止の観点だけではなく、裁判員裁判の延期に伴う被告人の不利益にも十分留意する必要があります。

(2)市民による司法参加の停止

裁判員になる市民の視点からみると、市民による司法参加の機会が奪われている状況が続くことになります。もし感染拡大防止のみに重きを置き、適切な対応が行われない状況が続けば、あたかも裁判員裁判が「不要不急」のものであるとの間違ったメッセージを広げることになります。

3 具体的な提言

(1)市民に対する積極的な情報公開を行うこと

緊急事態宣言が解除されたとしても感染拡大が完全に終息しないことも考えられます。そのような中で裁判員裁判を再開させるためには、感染拡大防止対策を講ずるとともに、裁判員裁判の必要性を社会で共有する必要があります。そのためには裁判所による積極的な情報公開が不可欠です。

裁判所は、被告人や事件関係者のプライバシーに配慮しながら、感染拡大による裁判員裁判への影響を積極的に情報公開すべきです。現在、裁判員裁判の「開廷期日情報」をみると、一部の裁判所では取消された期日がわかるようになっていますが、「現在、傍聴できる裁判員裁判の予定はありません」、「当分の間、更新を見合わせております」との記述しかない裁判所もあります。

少なくとも延期した裁判員裁判については、各裁判所のホームページに掲載することができるはずです。また、本来であれば公判前整理手続が終わり、裁判員裁判の日程が決まるはずだった事件が増えていくはずです。現在、どのくらいの裁判員裁判事件が行われない状況になっているのか市民は知ることができません。日程未定の裁判員裁判事件についても各裁判所のホームページで公表すべきです。

これらの情報について、全国の状況を最高裁判所が取りまとめて適宜公開するべきだと考えます。

(2)「裁判員裁判の再開に関するガイドライン」をつくること

裁判員裁判では、選任手続で多くの裁判員候補者が集まることや長時間の評議が予定されていることから、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からは再開への準備が難しいことが予想されます。再開には裁判員となる市民の理解と協力が不可欠です。

大谷直人最高裁判所長官は、「業務継続計画に基づき、事件・文書の受付、DV事件、児童虐待に関する事件、保全手続など緊急性の高い手続は継続して行いつつ、その他の事件については、所在する地域の状況に即して、期日を変更するなど、業務を縮小する措置をとっています」との談話を発表しました。この談話の中で、裁判員制度について「間もなく施行後11年を迎える裁判員裁判は、広く国民の皆様に参加していただいて初めて成り立つ制度です。感染症に係る現在の情勢下においては、安全かつ安心して裁判に参加できる環境を確保することが不可欠であり、迅速な裁判の要請を踏まえつつ、各裁判体において裁判実施の当否を見極めるとともに、選任手続、審理、評議等の運用上の工夫を進めていく必要があります」と言及されています。しかし、裁判所の「業務継続計画」には、裁判員裁判の再開に関する具体的な指針は示されていません

市民の理解と協力を得て裁判員裁判を再開するためには、「裁判員裁判の再開に関するガイドライン」が必要なのではないでしょうか。各裁判体が裁判実施の当否を判断し、運用を工夫する前提として、どのような状況になったら延期された裁判員裁判の日程を新たに決めるのかという指針を示すことは有意義だと考えます。ガイドラインでは裁判員裁判によって感染が拡大することがないように、感染症の専門家の知見に基づく具体的な感染防止策を盛り込むべきです。このようなガイドラインが公開されることによって、裁判員になる市民は、安全かつ安心して裁判員裁判に参加できる環境であるかを知ることができます。

私たちは、新型コロナウイルス感染拡大によって裁判員制度が実質的に停止している状況であることを、市民による司法参加の大きな課題として真摯に受け止める必要があります。市民の理解と協力を得て裁判員裁判を再開させるために、裁判所は「裁判員裁判の再開に関するガイドライン」を早急に作成し、広く公開するべきだと考えます。

<参考>

一般社団法人裁判員ネット「市民からの提言2018

http://saibanin.net/updatearea/news/files/2018/05/teigen_20180513_1.pdf


<脚注>


新型コロナ影響、裁判員が辞任 判決期日を取り消し(朝日新聞202033日)
https://www.asahi.com/articles/ASN337V40N33OIPE02P.html
<新型コロナ>裁判も続々延期 被告勾留も長期化(東京新聞2020331日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202003/CK2020033102100029.html
裁判員裁判、コロナで延期 3月の予定が「最速11月」(朝日新聞2020310日)
https://www.asahi.com/articles/ASN3B7F8WN39UTIL00L.html
新型コロナウイルス感染拡大防止のための期日取消等について(東京地方裁判所)
https://www.courts.go.jp/tokyo/index.html
名古屋地方裁判所本庁の裁判員裁判開廷期日情報(202052日閲覧)https://www.courts.go.jp/nagoya/saibanin/kaiteikijitsuhontyou/index.html
裁判員裁判開廷期日情報(東京地方裁判所本庁)202052日閲覧)
https://www.courts.go.jp/tokyo/saibanin/kaiteikijitsu/index.html
憲法記念日を迎えるに当たって(最高裁判所)
https://www.courts.go.jp/about/topics/kenpoukinenbiR2/index.html
新型インフルエンザ等対応 業務継続計画 (最高裁判所)
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/280601.pdf
「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和254日変更)」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_h_0504.pdf

同基本的対処方針において、政府は、事業者及び関係団体に対して、今後の持続的な対策を見据えて業種や施設の種別ごとにガイドラインを策定するなど自主的な感染防止の取組を進めることを促しており、政府が専門家の知見を踏まえ情報提供及び助言するとしています。政府の基本的対処方針では司法・裁判の在り方について明示されていませんが、三権分立の観点から裁判所が自ら率先してガイドラインを作成すべきだと考えます。

PDF版ダウンロード⇒「市民からの提言~新型コロナウイルス感染拡大に対応する裁判員制度のために

■過去の提言はこちら↓

■2019年「裁判員制度・市民からの提言~辞退率上昇と主席率低下を改善するために」

■2018年「裁判員制度・市民からの提言2018」

■2014年「裁判員制度・市民からの提言2014」

■2012年「裁判員制度・市民からの提言2012春」

■2011年「裁判員制度・市民からの提言2011春」



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