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[広報]裁判員制度見直し・「裁判員制度に関する検討会」取りまとめ報告書(案)に対するコメント

2013年5月14日

裁判員制度見直しに関して、法務省の「裁判員制度に関する検討会」が取りまとめ報告書(案)を示しました。これについて、裁判員ネットでは、市民の視点から、この報告書(案)で改善点とされた点以外についても見直しが必要だと考え、以下のコメントを発表しましたので、ここに掲載いたします。

 

「裁判員制度に関する検討会」取りまとめ報告書(案)に対するコメント

2013年5月9日
一般社団法人裁判員ネット代表理事  大城 聡

 裁判員法附則第9条では制度施行から3年経過後に行うとされる制度の見直しを検討する旨が定められています。法務省に設置された「裁判員制度に関する検討会」では、取りまとめ報告書(案)(以下、「報告書(案)」といいます。)が示されました。報告書(案)では、裁判員制度の法制及び運用に関して改善が必要な事項として、①極めて長期間に及ぶ事案を例外として裁判官のみによる裁判として実施できるようにする制度とすること、②甚大な災害等を想定した新しい辞退事由の類型を設けること、③選任手続きにおいて被害者などに対する配慮のための措置をとることをあげています。
 私たち裁判員ネットでは、裁判員裁判をモニタリングする(傍聴してアンケートに答える)「裁判員裁判市民モニター」を、制度施行以来、479件(対象裁判54件、うち模擬評議の実施23回)行ってきました。2012年5月には、裁判員制度の見直しに関して、「市民からの提言2012」をまとめました。  
 このような取り組みを通じて、私たちは、裁判員制度が市民参加の制度として社会に根付くためには、報告書(案)で改善点とされた3点だけではなく、以下の3つのテーマに関した裁判員制度の見直しが必要不可欠だと考えています。

1、市民の視点から裁判員制度を検証する体制をつくること
 裁判員制度は、市民が司法に直接参加する制度です。裁判員制度のあり方についても、法律の専門家だけではなく、司法の新しい「担い手」となった市民の声を反映させることが大切です。
 裁判所が実施する裁判員経験者の意見交換会は、法曹三者にとって有意義な場となっています。しかし、市民が司法の新しい担い手となった裁判員制度では、法曹三者が実施する場だけではなく、市民が主体的に裁判員制度の検証を行う場が必要です。裁判員経験者を含めた「市民委員会」(仮称)を設置するなど、市民の視点から継続的に裁判員制度を検証する体制をつくることが必要だと考えます。

2、裁判員の体験を市民が共有できるようにすること
 市民が主体的に裁判員として参加できる土壌をつくるためには、裁判員の貴重な経験を共有することが不可欠です。現在の制度では、裁判員候補者にとっては候補者であることの公表禁止義務があり、裁判員経験者にとっては広範な守秘義務があり、これらが貴重な経験を共有する機会を妨げる壁となっています。
 裁判所から具体的な日時が指定された呼出状を受け取ったことを公にしてしまうと事件が特定されるおそれがあります。しかし、裁判員候補者は年間約30万人にいることから、たんに裁判員候補者になったということがわかるだけで、不当な働きかけがされる可能性はほとんどありません。したがって、呼出状を受け取ったことは公表禁止とすべきですが、本人の同意があれば裁判員候補者であること自体は公表してもよいとするべきです(「市民からの提言2012」提言⑥参照)。
 裁判員の経験の核心部分である評議に関して広範な守秘義務が課されていることで、裁判員の経験を市民の間で共有することが難しくなっています。守秘義務については、裁判員の自由な討論を保障し、事件関係者の保護しながらも守秘義務の範囲を限定すべきです。評議の経過や発言者を特定しない形での意見の内容、評議の際の多数決の数は、守秘義務の対象から外すべきです(「市民からの提言2012」提言⑪参照)。

3、裁判員及び裁判員経験者の心のケアに配慮すること
 重大な刑事事件を対象とする裁判員裁判に、市民が責任をもって参加するためには、裁判員及び裁判員経験者の心理的負担について十分に配慮する体制をつくる必要があります。
 報告書(案)では、「7 裁判員等の義務・負担に関わる措置等について」で、裁判所が「運用上の配慮をきめ細かく行っている実情」を前提として、特に改善の必要に言及していません。
 私たちは、裁判員及び裁判員経験者の心のケアについては、裁判員になる前の段階、裁判員を務めている段階、裁判員を務め終わった後の段階で、それぞれ次のような見直しが必要だと考えています。

(1)裁判員になる前の段階
■裁判員になるための「心の準備」ができる環境をつくること
・裁判員裁判を傍聴するための情報提供を行い傍聴しやすい環境をつくること(「市民からの提言2012」提言③、⑦参照)
・上記2の改善を行い、裁判員の経験を市民が共有できるようにすること
・政令に定められた辞退事由として、精神的負担が重大な場合には辞退できる旨を周知徹底すること(「市民からの提言2012」提言⑨参照)

(2)裁判員を務めている段階
■裁判員を務めている間も臨床心理士等に相談できる機会をつくること
・全国8か所の高裁(または同所の地裁)に臨床心理士を配置し、電話または面談が随時できるようにすること

(3)裁判員を務め終わった後の段階
■守秘義務の範囲を限定し、心理的負担を一人で抱え込まないようにすること(「市民からの提言2012」提言⑪参照)
■裁判所の「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」について見直しを行うこと
・裁判所の設置ではなく、裁判所で心理的負担を感じた裁判員経験者が相談しやすいように独立した第三者機関とすること
・相談回数の制限をなくすこと
・相談に際しては、守秘義務が解除されることを明示すること
・面談に際しては、相談者の最寄りの地裁付近まで臨床心理士等を派遣し、出張相談できる体制を整備すること

以上



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